「死ぬ気で跳ぶのはもう無理だな」体操・寺本明日香が引退を悟った瞬間。最後の舞台は「これからはあなたたちだよ」と伝えたかった

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 近藤みどり●撮影 photo by Kondoh Midori

「死ぬ気で跳ぶのはもう無理だな。限界だな」

ーー昨年5月のNHK杯が終わったあとの取材では、「ここまでだなと思って演じた」と話していて、すぐにもやめたいのではないかと思いました。しかしその後は東京五輪の補欠選手にも選ばれ、合宿にも参加するなかで、「もう少し」と思ったのですか?

寺本
 あの時はけっこう心が折れていた時期なんです(笑)。本当に(体操を)やりたくない状態でした。でも五輪へ向けてやらなければいけないから、最後の仕事だと思って。心は嫌だけど体は動くので、このまま終わるのもどうかなと思うようにもなって。公式に進退を明らかにしていなかったので、友達からも「終わるの? 終わらないの? どっちなのよ」みたいに言われました。自分でも「終わる?」と言ったら「う〜ん」だし、「やるの?」と言っても「う〜ん」だし。白黒ハッキリしてなかったからモヤモヤした感じでした。

ーー心ではもうやめたと思っているけれど、体はまだやめたとは思ってなかったのでしょうね。

寺本
 そうですね。そのあとも気持ちが入ると(演技は)できちゃうけど、足の痛みはありました。足を治したら気持ちが乗っていくのではないかなと思って、1カ月くらい足を休ませたら一時的に痛くなくなって。でも、10年間はずっとトップレベルの練習をしていたから、その練習をすると体がきつくて「限界だな」というのがわかりました。食生活もそれなりに考えてやったけど、体をちゃんとつくり上げるのが難しかったですね。

 跳馬は特にそうですね。私は「チュソビチナ」(前転跳び前方伸身宙返り1回半ひねり)という技をやるので、毎回死ぬ気で跳んでいます。衝撃も大きくて毎回事故に向かうようなものだから、相当な緊張感もあって気持ちと体のコンディションがそろっていないとできない。でも、「死ぬ気で跳ぶのはもう無理だな。限界だな」と思いました。

 だから全日本では、跳馬は自分の得意種目でもあるけど、自分の最高の演技は過去の映像に残っているからそれを最後にすればいいと思って回避しました。ただのプライドだったかもしれないですけど(笑)。

ーーそして、心身は納得しましたか?

寺本 もう無理って思いました。だから終わってからは日常生活でもスポーツはしていないし、何もしようとは思わない。階段を上がるのが今の一番のスポーツという感じです(笑)。

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