アドベンチャーレーサー田中陽希「殴られる意味がわかっていました」。仲間との過酷なレースで得た精神的成長 (2ページ目)

  • 田中清行●取材・文 text by Tanaka Kiyoyuki
  • 岡庭璃子●撮影 photo by Okaniwa Rico

拠点にする群馬県みなかみ町で取材に応じる田中拠点にする群馬県みなかみ町で取材に応じる田中この記事に関連する写真を見るこの記事に関連する写真を見るこの記事に関連する写真を見る チームスポーツは、何のためにやっているかが明確でないといけません。たとえば、サッカーのワールドカップで優勝するという目標を達成するには、それが錚々(そうそう)たるメンバーであっても、全員が心底それを信じて最後まで貫き通せるかが大事で、いわんや寄せ集めチームには、揺るがない目標こそが不可欠です。夢のまた夢の大番狂わせも実際あるじゃないですか。メンバー全員が、同じ気持ちを持ち続けることができるか否か、それが大事なのです。

 ARでは、大会前日に初めてコースが公表され、地図とコンパスで未知の世界に踏み出して行きます。どんな展開になるか誰にもわからない。それに、みんながそれぞれの経験と体力でぶつかっていき、数日かけて数百km先のゴールを目指すというものです。人工的なフィールドではなく、手つかずの自然に放り込まれながら、あくまで主体的に楽しく、それをまっとうするチーム競技なのです。

 経験の乏しかった頃ですが、夜、密林のなかで、他のチームにばったり出会った。彼らは楽しそうに微笑んでいる。僕らは迷走し、疲労と眠気でそれが信じられない。彼らは「君たち、そんな暗い顔して、どうしたんだ。俺たちは楽しみに来てるんだろ」と言い残して、ヤブに消えて行きました。気構えというか、精神的な部分ですでに負けているな、としばし呆然でした。自分たちはわざわざ地球の裏側まで来て、何のためにチームを組んでゴールを目指しているんだ、と鋭く自問させられました。

レース中に理性を失って吐いた台詞

「3百名山ひと筆書き」を2021年8月に終え、ひと筆書きのソロ、ARのチームの両方を経験して思うのですが、あえて言えば、ソロのほうがラクです。個人の場合、一から十まで全部自分でやらなくてはいけないので、大変そうに見えるかもしれませんが、全部をコントロール下に置けるからです。

 しかし、チームの場合はもう少し複雑です。たとえば、役割分担があり、それに対して経験値や考え方、感覚の違いが出たりします。そこに起因した失敗で、メンバー間にトラブルや衝突が起こることがあり、収まるどころかさらに悪化して、レースにならなくなることも、チームが崩壊することもあります。

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