高梨沙羅、万全な体調のなかで生まれた迷い。「道具を絞り切れないまま試合に臨んでしまった」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by YUTAKA/AFLO SPORT

【好調が故に生まれた迷い】

 踏み切りのタイミングのズレを少し修正した2本目は、1本目とほぼ同じ秒速0.58mの向かい風のなか、優勝したボガタイと同じ2本目トップタイの100mを飛んで意地を見せた。

「今はすごくいろんな感情が込み上げてきています。平昌からの4年間、いろんな人たちに支えてもらっていただいたが、結果で恩返しできなかったのが悔しいです」

 こう話す高梨は今季、W杯ではなかなか表彰台に上がれずに苦しんでいたが、1月1日の第9戦でシーズン初勝利を挙げ、通算勝利数を61に伸ばしてからは順調だった。

 1月末のラージヒルで行なわれたW杯2戦を欠場し、五輪へ向けて万全な準備をしてきた。それを示すかのように、2月3日の最初の公式練習では104mを最高に、100mジャンプを3本揃え、得点順位も1本目と3本目が1位で、2本目は3位と強さを見せていた。

 しかし、2日目からは少しずれ始めた。

「W杯で優勝してからは迷いもなかったし、ここに入ってきて1日目の公式練習を終えたあとは、道具なども大体固まったと思えました。でも次の日の練習は前日とは違う気象状況になってしまい、『これだ』と決めた道具があまり自分に合わないのではないかという気持ちになってしまって。毎日いろんな方向から風が吹いてくるなかを飛んでいて、道具を絞り切れないまま試合に臨んでしまいました。今回のようなクロスゲームのなかでは、そういうものが最初から決まっていないとダメなんだなと思いました」

 横川コーチは、高梨の身体面での調整は万全だったという。体が動いて切れ味がよすぎるからこそ、踏み切りのタイミングが少し早くなっていたのではないかと言う。試合でいつもの感覚で動き出しても、体が速く動きすぎるためにタイミングが少し早くなっていたのだ。

「考えすぎたというのもあるかもしれないですが、毎回飛ぶごとに風の条件が違いすぎるので、『本当にいいところはどこなのか』と少し迷ったのかなと思います。特にここは標高800mほどの高地で気圧も平地より低いので、風が少し弱くなっただけでも感覚的にはなくなったように感じてしまう。彼女の場合は感覚が繊細で、それが優れた能力ですが、今回はそれが逆に出てしまった感じです。

 2本目も含めて失敗しても、あそこまで飛べる選手なので、今回は気持ちが空回りしたのと、風の運のなさが結果として表れてしまいました」(横川)

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