渡部暁斗が「これはもらったな」と感じた大ジャンプ。インフル感染を機に消えた迷い、五輪でのメダル獲得へつながった (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA

【発揮した持ち前の冷静さ】

 何度も戦ってきた他の選手たちとの力関係も、ほぼ把握している状態。後半の距離はジャンプのあとでフレンツェルと、「後ろの3位以下は15人以上の大きな集団になりそう。ふたりで協力して逃げようと」話をした。その思惑通りにスタートして1㎞過ぎで追いつくと、直ぐに前に出て引っ張り出した。「スキーが滑りすぎていたので、出るつもりはなかったけど出ちゃったんです。でもそこでスピードを変に落とすよりも、スーッと前に出ちゃったほうが力を使わなくていいし。自分のペースを保てたので良かったと思います」と笑った。

 距離のコースは2.5kmを4周。1周目には29秒6だった後続集団との差は2周目には21秒になった。だが、3周目に入ると、1分12秒差の25位でスタートしていたバンクーバー五輪ノーマルヒル3位のアレッサンドロ・ピッティン(イタリア)らが集団を引っ張り、6.5km地点では12秒9差に詰めてきた。しかし余力を残していた先頭のふたりは、そこからの追い上げを許さなかった。

「いつものようにインフォーメーションを聞きながら後ろとの差を測って走っていました。冷静さが僕の売りなので」

 こう言って笑う渡部は、最終周回の最後の長い上りでフレンチェルの前に出ると、ロングスパートをかけた。「最後までもつれ込んだらエリックのほうが強いから、勝つにはそこしかチャンスがないと思っていました。でも離せずに疲れてしまった。競技場の手前でエリックにスパートをかけられて負けたけれど、思ったところで仕掛けて負けたので悔いはないですね」とレースを振り返った。

 フレンチェルよりスキーが滑っていたこともあり、ふたりで走っているうち3分の2は渡部が前へ出て引っ張っていた。それにも悔いはないという。後ろの集団に追いつかれれば、走力がある選手ばかりで結果はどうなるかわからない。メダルを確定させようと、自らが選んだ走りだった。

 狙っていたメダルをあっさりと獲得した渡部は、「なんか僕らしいんじゃないですか。2位というのも定位置に収まったという感じで」と言って笑顔を見せた。

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