「365日中350日合宿」元・新体操日本代表、杉本早裕吏が語るフェアリージャパンの日常と東京五輪でのミス (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by YUTAKA/アフロスポーツ

【世界選手権で「世界一美しい片手取り」】

 長期合宿と1日8時間もの厳しい練習から生まれたのが、技術の高さと美しさに磨きをかけた日本独自の新体操だ。2019年世界選手権、団体種目別のボールで金メダルを獲得したが、その時に世界から「世界一美しい片手取り」と言われた。

「ボールを片手で取ると点数が高くなりますし、演技の美しさにもつながります。でも、ボールを落としたくないですし、ミスしたくないので、多くの国は両手で取りにいったり、多少体勢が崩れてもボールを取りにいきます。私たちは、それでは世界に勝てないと思ったので、片手取りの練習を徹底し、0.1点でも多く得点を取りにいくようにしていました」

 世界一の片手取りには、コツがある。

「ボールを取るには、体をかたくしているとダメです。それだとボールが反発して、うまく取れないので、体をできるだけ柔らかくしてボールを吸収するようなイメージで取っていました。力んでしまうとボールはもちろん、演技自体もダメになるので」

 フェアリージャパンは、同大会で団体種目別の3フープ+2クラブで銀メダル、団体総合決勝でも銀メダルを獲得し、東京五輪に弾みをつけ、メダルへの期待が膨らんだ。

「世界選手権ではこの1本に賭けるみたいな時に全員が力を発揮して、それこそゾーンにみんなが入ってピタリとすべての技が完璧にできたんです。この演技ができるなら東京五輪もと思いましたし、結果が出たのでみなさん、メダルを期待してくださったと思います」

【東京五輪では8位という結果に】

 コロナ禍の影響で1年延期になった東京五輪。フェアリージャパンはメダルを期待されたが、得意のボールで演技が乱れ、フープ+クラブでは手具が場外に出るなどミスが出た。

「試合でミスが出たんですけど、その前の練習に問題がありました。チームとしてまとまりがあったかと言うとそうではなく、そのまま本番を迎えてしまったんです。キャプテンとしてチームをまとめるのが私の責任ですので、そこでひと言かけるなり、厳しく言うことをしないといけなかったなと思っています」

 まとまりを欠いたのは、五輪という特別な舞台の雰囲気が影響を与えた部分もあるだろう。杉本さんは、五輪ではチームがいつもの大会と違う雰囲気になっていき、「五輪の難しさ」を感じたという。また、無観客の会場も演技に影響を与えたようだ。

「無観客はW杯で経験していましたが、東京五輪の会場は本当に静かでモノをひとつ落としても響きわたる感じでした。踊っている時、耳に入るのは私たちの呼吸と曲だけ。私は、それが逆に聞こえすぎて怖かったですね。それでも強いチームはよい演技をします。多くの方にメダルを期待していただき、私たちも勇気や笑顔をお届けしたいと思っていましたが果たせず、本当に残念でしたし、悔しかったです」

 東京五輪、新体操団体総合決勝は8位に終わった。

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