名古屋場所10日目の夜、白鵬は師匠と部屋の力士たちに今場所限りの引退を告げた

  • 武田葉月●取材・構成 text by Takeda Hazuki
  • photo by Kyodo News

 中学生になると、モンゴル人力士のパイオニア・旭鷲山関、旭天鵬関(現・友綱親方)が大相撲で活躍する場面をテレビで見ていました。大相撲の記事が載っている日本の雑誌も家にあって、それを眺めるたびに、「相撲取りって、カッコいいなぁ」と思うようになったんです。

 でも、当時私が夢中だったのは、バスケットボール。12歳からはレスリングも始めました。

 レスリングでいい成績を収めた時もあったのですが、父は「レスリングじゃなくて、バスケをやりなさい」と言うんです。あとから聞いたのですが、私の将来を考えて、2つの理由からバスケットボールを勧めたのだそうです。

 レスリングをやり過ぎて、早い時点で体が固まってしまわないように。心の面では、あまり強くない時期に強い人に投げつけられて気持ちが萎縮してしまわないように。

 そうして、「日本に行って、3カ月の間、相撲の基礎を教えてもらえる」。そういう話があったのは、2000年の夏頃です。

 父から、東京オリンピックの話を聞いたり、日本の恋愛ドラマを見たりして、憧れていた日本。お相撲さんにも会えるかもしれないし、チャンスがあれば行ってみたいな......。その「チャンス」が巡ってきたんです。

 私を含めた7人の少年が、日本に向かうことになりました。大阪で実業団相撲チームを持つ企業(摂津倉庫)の稽古場で、相撲の指導を受けていたのですが、一緒に日本に来たメンバーは、次々に相撲部屋の親方からスカウトされていくんです。

 確かに私はメンバーのなかで、一番年下で、体も細かったのですが、「なんで自分には声がかからないんだろう?」と、焦ってきましてね......。そうこうしているうちに、モンゴルに帰国する前日になっていました。

 それは、「さよならパーティー」の最中のことでした。宮城野親方から、入門を打診する電話が入ったのは......。帰国ギリギリのところで、声をかけてくださった宮城野親方には、今でも感謝しかありません。

(つづく)

白鵬 翔(はくほう・しょう)
第69代横綱。1985年3月11日生まれ。モンゴル出身。幕内優勝45回を誇る大横綱。2019年、日本国籍を取得。2021年9月、現役引退を発表、年寄・間垣襲名。

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