ボートで日本代表を経験した逸材が転身。自転車歴1年余りで早期卒業ラインをクリアし、規格外の能力で競輪界へ

  • 加藤康博●文 text by Kato Yasuhiro
  • 高橋学●撮影 photo by Takahashi Manabu、石川高央●撮影 photo by Ishikawa Takao

「養成所に入るまで、自転車で誰かと対決したことがなかったので、タイムトライアルでは負けない相手でも、一緒に走ると負けてしまうことが多く、悔しくて落ち込むこともありました。

 ただ実戦形式の練習を全力で取り組んでいくなかで少しずつヒントも見えてきましたし、一緒に訓練を受けている仲間からアドバイスを受けることもでき、成長はできていると思います。

 養成所の中では候補生同士で技術的な話ができる時間が多くあったので、それが自分にとってすごくよかったです。みんなで高め合う雰囲気があって、私も毎朝一緒に練習する仲間がいて、お互いに朝の4時に起こし合って、自主トレーニングを続けてきました。日中も養成所のカリキュラムがあるので疲労困憊の時もあって、そんな時はお互いにあえて起こさないなどの配慮もしてきましたが、充実した毎日でしたね」
 
 自主トレーニングに励む理由は、周りと差をつけ、勝つためではなく、「自分の限界を知りたいからだ」と太田は言う。そしてその思いの根源には自転車に乗るのが楽しいというシンプルな欲求がある。

「トレーニングで自分を追い込んでいったらどこまで成長できるか、それを試したいんです。どれだけ追い込めば、どれだけスピードを出せるのかを自分の体で実験している感覚があります。

 ただそれを繰り返してタイムがどんどんよくなっても、養成所では自信はつきませんでした。むしろ自信になったのは、他の候補生よりも自分は楽しんで自転車に乗れているという点に気づけたこと。訓練も始まる前にはワクワクするんですよね。勝負の世界なのでもちろん競い合いが何より大切ですが、レース前も楽しみな気持ちが強くて、あまり緊張することがありません。それが自分の強みかなと思っています」

養成所を早期卒業した太田海也。まずは競輪で実力を試す養成所を早期卒業した太田海也。まずは競輪で実力を試す

 子供の頃から多くのスポーツに親しみ、高校から本格的にボート競技に打ち込んだ太田。過去に取り組んだすべてのスポーツが今に生きているが、自転車に関しては子供の頃から特別だった。

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