モーグル里谷多英、長野五輪金メダル獲得の真相。気持ちを入れ替えた「2つの出来事」 (2ページ目)

  • 佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun
  • 藤巻 剛●撮影 photo by Fujimaki Goh

――スタートラインに立った時には多くの観衆の姿も見えたと思うのですが、そんな観衆の歓声や声援は耳に届いていましたか。

「いえ、全然入ってこないんですよ。スタート前のことはまったく覚えていないですし、滑っている時も他のどんな大会とも変わらず、歓声や(会場に流れる)音楽とかも聞こえなくて......。とにかく(頭の中は)真っ白(笑)。その時の記憶はまったくないんです。

 初めて国際大会に出場した時も、途中で転んだのに滑り終えた時にはその記憶すらなかったんです。滑り終えて、現地に来ていた父に『決勝ではこうしたい、ああしたい』と言っていて、父に『転んだから、決勝にはいけない』と言われても、思い出せないほどで。長野の時はその時と同じ感覚でした」

――フィニッシュして、メダルへの実感はありましたか。

「それもなかったですね。記憶がなかったので、『また転んだのかな』と悪い記憶が蘇ったりして......。スコアを見た時も、25点というのは見えたんですけど......。過去に出場した世界レベルの大会で、自分自身が25点台を出した経験がなかったので、最初は『これってタイムなの? それともスコアなの?』と戸惑っていました。タイムなら30秒だし、『何だろうな』って思っていたところ、(スタッフや観衆など)みんなが喜んでいたので、自分も一瞬喜んだんですよ。

 でも、そこでまた冷静になって『やっぱり違うかな......』と思ったりして、改めてスコアを見たら25点だった。それで、『えっ!?』ってびっくりして。金メダルという実感もなくて、夢みたいなフワフワした気持ちで。現実味がなかったですね」

――メダルを獲得したことで、自らを含めて、周囲で何かしらの変化は見られましたか。

「長野の時はメダルを2個、3個と獲得した選手がいたので、自分がそこまですごいことをしたという実感もなく、(自分自身は)特に変わることはなかったです。変にチヤホヤされることもなくて、友人関係にも変化はなかったです。

 また、いろいろな方に『メダルを獲ると周囲が変わるよ』と言われたのですが、知らない親戚が増えることもなかったですね(笑)。(メダルを獲って)何かいいことがあったかと言えば、チームに専属トレーナーがついたりしてサポート体制が充実したこと。それは、大きかったです。あと、美味しいものを食べさせてもらえました(笑)」

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