「ホント天国か地獄かって感じですね」。アーチェリーの銅メダリスト武藤弘樹が振り返る責任重大のあの場面 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by JMPA

 東京五輪、アーチェリー団体戦、日本は準決勝で韓国に敗れ、ブロンズメダルマッチに進んだ。相手は、オランダ。息詰まる試合展開のなか、シュートオフにもつれこんだ。いわゆるサドンデス方式の延長戦だ。3人がひとりずつ矢を射ち、合計得点で勝者を決める。

 武藤は、ラストの順番だった。

「順番は、みんなで話し合って決めるんですけど、僕は最初に射つよりも最後のほうが気持ち的にラクに射てるし、自信があるのでシュートオフはほぼ3番固定です。1本で決まるし、1本をミスすると負けが決まってしまうので責任重大。決めればヒーロー、外したら『武藤が決めていれば』と言われるので、ホント天国か地獄かって感じですね」

 シュートオフに入り、先行のオランダ1人目が10点を決め、日本の河田が9点。オランダの2人目と古川が共に9点。オランダの3人目が9点だった。最後に武藤が矢を射つのだが、勝利するためには10点が必要で、さらに1人目の10点よりも真ん中に当てなければならない。

「10点を狙い、出来るだけ内側に当てないといけない。ここで当てたいと強く思うと迷うし、安全にいきたいという気持ちが出ると外してしまう。覚悟を決めて、外したらしょうがないくらいの気持ちで思いきり、攻めて射とうと思いました」

 シューティングエリアに行く前にチームメイトからは「武藤ならできるよ」と言われた。同時に、「このくらい矢が流れる」と鍵となる風の情報をもらった。

 エリアに入ると、気持ちが落ち着き、集中することができた。

 武藤が放った矢は、10点。スコアは、28-28と同点となったが、中心に近い矢の差で日本が勝利した。その刹那、武藤は雄叫びを上げ、喜びを爆発させた。

「今まで悔し涙ばかりで一度もうれし涙を流したことがなかったんです。メダルへの思いが強かったですし、最後の1本、不安と緊張があったなか、しっかりと決めて終えることができたので思わず声と涙が出ました」

 3人が集まって、小さくタッチした。

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