星野リゾート代表がスタッフのオリンピアンに助言。競技のことは「いったん忘れろ」。その理由とは? (2ページ目)

  • 村上佳代●文 text by Murakami Kayo
  • 布川航太●撮影 photo by Nunokawa Kota

【理想のリーダー像を描いて、演じきる】

星野 企業やチームのリーダーにとって大事な技術の1つが、演技力です。私の場合は、弱さもある本来の自分らしい人格と、社員から見た経営者としての人格は「別」だととらえています。本当の自分とはギャップがある経営者像を、演じきる力がすごく重要だと思っています。

 さらに言えば、「演じる」と考えたほうが、私自身、楽なんです。そう割り切れば、ありたい経営者像と自分の人格のギャップに苦しむ必要もありませんから。

遠藤 優秀な経営者を見るなかで、そのことに気がついたんですか?

星野 そうですね。かつてはやる気のない人がいたら、その責任はその人自身にあるとされていました。やる気のない人が悪い、やる気を出している人が優秀という見方が一般的だったと思います。

 しかし、近年では「やる気を出させる経営者」という概念がでてきました。つまり、やる気のない人がいたら、その責任は経営者にある。経営者の仕事はやる気のあるチームをつくることであり、エンパワーできる経営者こそが優秀な経営者と言われるようになりました。スタッフにやる気を出させるためにどう振る舞うかという演技力が、経営者に求められる大事な能力になってきたんです。

遠藤 それはスポーツのマネジメントにも共通しそうですね。アイスホッケーの主将時代も、演じていたんですか?

星野 演じていましたね。本当は自分自身が一番勝てないと思っていても、勝てないと思っている姿をチームに見せないようにしていました。勝てない気持ちがチームに伝染してしまいますから。

 逆に、相手が弱くて絶対に勝てると自分自身が思っていると、チームのメンバーもだんだんと傲慢になってきて、ちょっとずつ手を抜きはじめる。そうなったら、今度は危機感を煽ってチームを導く。これも演技です。

遠藤 時には仲間を鼓舞して、時には厳しいことを言う。相手の立場や状況によって、その時々の理想的なリーダーを演じるわけですね。

星野 たとえば、コロナ禍において「会社は大丈夫」と言い切る。これには演技力が求められます。実のところ、一番危機感を感じているのは私自身です。しかし、不安を前面に出さずに、「大丈夫。理由はこうで、こうすれば平気なんだ」と自信を持って言い切ることができるかどうかで、チームの反応は変わってくると思います。

遠藤 ご自身がどういうリーダーであるべきか、常に考えているんですか?

星野 そうですね。どんな経営者だったらみんながついていきたいと思うのか、という役づくりをして、演じていますね。

遠藤 素ではない部分が多いわけですよね。やっぱり疲れますか?

星野 リフレッシュするために休みもあるので。私の場合はスキーが気分転換になっています。

 リーダーにはちょっといい加減な部分、もっと言うと、遊びの部分があっていいと思うんです。私の理想のリーダー像では完璧すぎることはあまりよくない。親しみ感があるのが大事だと思うので、それをどう演出するかを考えています。スキーもその1つです。

遠藤 そのあたり、やっぱり星野さんはキャプテンシーをお持ちだなと思いますね。トップに立つリーダーでありながら、現場との距離が近くてキャプテンのような存在でもありますよね。

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