伊調馨からは「早く負けろ」。須﨑優衣が3度の敗北から金メダルを掴むまで (2ページ目)

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • photo by JMPA

 学校で勉強する時、食事、入浴時間以外は、すべて練習漬けの毎日。唯一ホッとできるのが就寝前だが、その束の間でも須﨑は天井を見上げ、「クソっ!」と悔しさをかき立てた。そして朝、目覚めると「よし、今日も誰よりもがんばるぞ!」と気合を入れる日々を過ごした。

 その成果は半年後に報われる。2016年6月の全日本選抜選手権では入江にリベンジを果たし、同年12月の全日本選手権、2017年6月の全日本選抜選手権でも優勝。初めて出場した世界選手権でも勢いは止まらず、18歳で世界チャンピオンに輝いた。

 ところが、その後も須﨑は勝ち続けたものの、パッとしない試合内容が続く。国体でもワールドカップでも格下の選手に先制点、大量点を許す展開ばかり。そんな須﨑に、伊調馨はこうアドバイスした。

「若いうちに、チャンピオンの肩書もプライドも捨てて、ガムシャラにやったほうがいい。(もっと強くなるには)早く負けることです」

 その言葉が的中したかのように、2017年12月の全日本選手権準決勝で須﨑は入江に0−10のテクニカルフォール負けを喫する。入江は徹底的に世界チャンピオンを研究し、相手の攻め手を完全に封じていた。須﨑の完敗だった。

「何もさせてもらえませんでした。調整ミスではありません。弱いから負けました」

 試合後、号泣した須﨑だったが、リベンジの炎は燃えた。「連敗は許されない」と心に誓い、さらに何倍もの練習を重ねた。そして2018年6月、全日本選抜選手権で入江にフォール勝ち。代表決定プレーオフでも勝って世界選手権2連覇を達成し、東京オリンピック出場が現実味を帯びてきた。

 しかしそんな矢先、須﨑にアクシデントが訪れる。全日本合宿で3階級上の選手に自らスパーリングを挑んだ結果、左ひじのじん帯を断裂して全治8週間の重症を負ってしまった。2018年12月の全日本選手権出場は絶望的。だが、須﨑は「翌年の全日本選抜選手権で優勝して、全日本選手権優勝者との代表決定プレーオフで勝てばいい」と前を向いた。

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