メダルダッシュで「アリガトウ」? 世界各国は東京五輪をこう見ていた (4ページ目)

  • 利根川晶子●訳 translation by Tonegawa Akiko
  • photo by JMPA

 驚いたことに、この事件が起こったあともミュンヘン五輪は続けられた。「平和の祭典」に起こってはならないことだろう。遺族たちは長年IOCに対し、五輪で正式に犠牲者の追悼を行なうように求めてきたが、IOCはなかなかこれに応じようとはしなかった。2016年のリオ五輪の際には、初めて選手村の中に追悼の場が設けられたが、公式に言及されることはなかった。

 しかし、今回の東京五輪では、49年目にして初めて、公の場で犠牲者への黙とうが捧げられた。この事件で夫を亡くした遺族も招待され、涙を流した。これにはイスラエルの人々の多くが感動した。ついに彼らの追悼を実現してくれた日本に、感謝の気持ちでいっぱいだった。

 こうした経緯もあって、イスラエルでの東京五輪へ関心は非常に高かった。街角で、カフェで、人が集まれば自然に五輪の話となった。東京の今日の天気も、札幌の明日の気温も、大会マスコットの名前さえ、みんな知っていた。

 それに加えて、イスラエルは今大会で史上最高となる4つのメダル(金2、銅2)を獲得した。金メダルは、過去にアテネ五輪で1つ獲ったことがあるだけだったので、イスラエルはこの快挙に沸いた。

 特にイスラエル人を一番熱くしたのは、新体操の女子個人総合のリノイ・アシュラムだ。アシュラムはロシア(ROC)の大本命ジーナ・アベリナを抑えて見事金メダルを獲得。リボンの演技ではユダヤの民族音楽を使い、世界中のユダヤ系の人々の注目も集めた。

 彼女がメダルを獲った際には、テレビもラジオもすべて通常の番組を中断して速報を流し、開催中だった国会の予算委員会も一時ストップして皆で彼女の演技を見たという。プーチン大統領をはじめロシアの人々は審判の判定に激怒したようだが、イスラエルの人々は自分たちの国旗がROCの旗より上に掲げられるのを見て、大喜びだった。
 
 日本がアメリカ、中国という大国に次いで金メダル数で3位についたことも、イスラエルの人々は我がことのように喜んでいた。感謝と称賛。それが東京五輪に対するイスラエルの人々の素直な気持ちだろう。
(つづく)

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