才媛アスリート・小平奈緒がオランダ留学で学んだ本場の「語学と殺気」 (4ページ目)

  • 宮部保範●取材・文 text by Miyabe Yasunori
  • photo by Kyodo News

──小さい頃に自分の意見を表に出せなかった小平さんが、大学受験の集団討論を経てひと皮むけたという話がありました。

「で、オランダ語を学んで、さらにむけたと(笑)。オランダにはスピードスケートの金メダリストがたくさんいて、その雰囲気を肌で感じられる。彼らが日々、体から出している、刺すような集中力。それは、日本だったら清水宏保さんしか持っていなかった。清水さんは、サインももらえないくらい近づけなかった。なので、オランダに行った時に、長野オリンピックの金メダリストのマリアンヌたちが出している雰囲気を肌で感じられたっていうのは大きかったですね。真剣になるっていうのは、どういうことなのかがわかりました」

──具体的には、どういうところが印象に残っていますか。

「よく、レース前とか『集中していけ!』って言われると思うんですが、オランダでは冷たい空気が流れるくらい殺気立っているというか......。マリアンヌはコーチなんですけど、レース前、ベンチで靴を履いている私の隣に来て『殺気で相手を喰いつくせ』って言うんですよ(笑)。最初は、『えっ?』と思ったんですけど、目力(めぢから)がほんとにすごくて、その目を見た時に『そういえばマリアンヌが長野でスタートラインに立った時、同じ目をしていたな』と、思いましたね。

 ただ、私には相手を"殺気で喰いつくす"っていうのはできないので、相手を蹴落とすんじゃなくて、その上を行くっていう自分なりの集中力を持ちたいなと。自分に合った"集中"を確立できたと思います」

──清水選手やオランダの金メダリストたちは、小平さんにとってどのような存在ですか。

「憧れではなくて、リスペクトの対象なんだと思います。憧れだと『わ〜、すごい』で終わってしまうと思うんです。こういう人になりたいとも思わないです。ただ、そうした人たちが持つ術(すべ)を身につけたい。

 それはスポーツ選手に限らず、リスペクトする人たちがどう思っているのかを想像してみる力というか。そこに入り込むというか。本人にはなれないんですけど、『この人だったらどう考えるんだろう』って、イメージを膨らませてみることを大事にしています」

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