才媛アスリート・小平奈緒がオランダ留学で学んだ本場の「語学と殺気」 (2ページ目)

  • 宮部保範●取材・文 text by Miyabe Yasunori
  • photo by Kyodo News

──スケートを始めてごくごく最初の頃にかけられる言葉に「横に押す、抑える」というのがあります。けれど、本当に進行方向の真横に抑えてしまうと進まない。フォームはきれいでも、スピードにのらない。言葉の表面だけを追っかけるとうまくいかないこともありますが、小平さんが自身の感覚を言葉にする段階で気をつけていることは何でしょうか。

「たぶん表現力だと思うんですけど、表現は体の感覚から生まれてくるんです。感覚を、より素直な言葉にできると、氷からもらっている力だとかそういったところで動きに変化が現れてくる」

──「表現は感覚から生まれる」とは、金メダルを手にした小平さんだけに説得力があります。技術的なことに限らず、小平さんのコメントを聞いていると言葉に豊かさがある。普段、どのようなアンテナを張っているのでしょうか。

「文武両道と言われるようなアスリートの方たちのお話を聞いていると、きれいな言葉遣いをするなと思います。頭の中でいろいろなことを楽しんでいるのでは、とも感じます。ありきたりの"アスリートコメント"でなく、自分の心から生まれる言葉で話されているので、ワクワク感みたいなものがすごく伝わってきます。日頃からいろいろ考えているのではと察します。

 私自身は、オランダに行く前にも、結城先生との会話や、チームメイトとのやりとりの中で表現が磨かれていく感覚がありました。さらにオランダに行ってから違う国の言語を学んだことで、表現の幅がとても広がったなと。日本語にないニュアンスに出会って、言葉の概念が変わったというか......」

──具体的にはどのようなことですか。

「例えば、『居心地がいい』っていうのを、オランダ語では『gezellig』って言うんです。間接照明が効いたレストランで食事をしている空気感や、友達と一緒に太陽の下でお茶を飲む気持ちよさを表現する単語です。気持ちいいとかリラックスできるっていうだけではなく、場の"あたたかさ"まで含む感じで」

──外国語の細かなニュアンスまで掴むのは大変そうです。

「オランダ語は現地に行ってから勉強したんですが、ポケットに入るくらいのノートを常に持ち歩いていました。チームメイト全員を先生にして、コーヒーを飲む時も、ご飯を食べる時も、もちろん合宿の時もテーブルの上にノートを置いておく。すると先生たちが、私に覚えてほしい単語を書いて発音してくれる。

 自分の中で、同じ単語を3回聞いたら覚えるというルールを決めて、ゲーム感覚で覚えていました。そうすることで、単語や独特の言い回しを覚えられるだけでなく、暮らしの中で人との関わりを持つスキルを学べました」

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