「飛ばないとうまくならないのに飛べない」。飛び込みの坂井丞、持病と闘いながら東京五輪でメダルを狙う (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Kyodo News

 それにしても飛び出す瞬間を合わせ、空中で同じ演技を同じタイミングで、しかも美しく見せるのは決して容易なことではないはずだ。四六時中、一緒に練習して呼吸を合わせているのだろうと思いきや、実際はほぼ一緒に練習することはないという。

「僕は神奈川県で練習し、健くんは兵庫県ですので、練習場が違うんですよ。もともとお互いに違うところでやってきたし、コーチも違います。お互いに気をつけることは、演技力を落とさないように、上げすぎないように調整して、大会会場で合わせる感じです。不思議なもので、僕らはお互いに全力でやれると合ってしまうので、そういうところはすごくラクなんです」

 二人は2015年、プエルトリコの国際大会で初めてペアを組んで出場した。それも本人たちが積極的にというよりは、海外の選手や役員に「日本で1、2番の選手でいるのに、なぜ組まないのか」と言われ、「とりあえず出てみるか」という軽い気持ちで出たら優勝したというのがスタートだ。リオ五輪後に本格的に活動を開始したが一緒に練習することはなく、世界で戦ってきた。そこには二人にしかわからないシンクロする呼吸と感覚が備わっているようだ。
 
 シンクロ板飛び込みとして、ふたりは初めて五輪に挑戦することになるが、個人としては寺内も坂井もリオ五輪に飛び込み板の日本代表として出場している。

 だが、坂井にとってリオ五輪は「苦い想いしかない」と苦笑する。

 リオ五輪の3m板飛び込みは室内ではなく、室外プールで開催された。五輪の舞台というと北島康介が絶叫した時のように大観衆で、もっと煌(きら)びやかな世界だと思っていた。だが外のプールは水が緑色になるなど環境面は劣悪で五輪感が全く感じられず、まるで海外の普通の1試合にしか思えなかった。

 しかも、競技の時、最悪なことが起きた。

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