「アスリート専用の動画サイト」まである、知られざる五輪への強化策 (2ページ目)

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 伊藤晴世●撮影 photo by Ito Haruyo


 まさにメダル増産"虎の穴"と呼ぶにふさわしいJISSの充実ぶりだが、久木留センター長は「やはり一番は、ものすごい練習をする選手がいて、ものすごい練習を指導できるコーチがいること。我々にできるのはあくまでも支援と、それを裏付ける研究だけ」と念を押す。

「例えば、レスリングではアテネオリンピックのときに、男女全選手にそれぞれ自分の試合、ライバルの試合などを編集してビデオを渡しましたが、女子選手でそのビデオをしっかり観たのは浜口京子さんだけでした。吉田沙保里さんや伊調千春さん、馨(かおり)さんはほとんど観ていなかった。

 なぜか? あの時点で世界のライバルとわずかな差で競い合っていたのは浜口さんだけだったからです。浜口さんはアテネ前年の2003年世界選手権では優勝しましたが、その1カ月後、日本で行なわれたワールドカップ団体戦でアメリカのトッカラ・モンゴメリー選手、カナダのクリスチナ・ノードハーゲン選手に敗れてしまいました。当時、連勝街道を突っ走っていた吉田選手や伊調選手とは違っていたんです。

 でも、2012年ロンドンオリンピックのときには吉田選手も伊調馨選手もビデオ研究を重ね、伊調選手などは携帯電話に必要な動画を取り込んでいたほどでした。世界各国の強化が一気に進み、"絶対女王"と言われた吉田選手や伊調選手といえどもウカウカしていられなくなりましたからね。その結果、伊調選手は女子初、日本選手初のオリンピック4連覇を果たし、吉田選手も3連覇、リオでも堂々の銀メダルですからさすがです。

 当たり前のことですが、練習しない選手は勝てない。我々が科学でどんなに支援しても、かけ離れたライバルとの差を埋めることはできません。埋められるのは、ほんのわずかな差だけ。そのうえで方向が間違っていないか、ケガをしないか、科学に基づくアドバイスをするしかないんです」

トレーニングや体調管理にアスリートカードが使われるトレーニングや体調管理にアスリートカードが使われる

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