初優勝、そして大関昇進――栃ノ心を栄光に導いた師匠のアドバイス (3ページ目)

  • 武田葉月●取材・構成 text&photo by Takeda Hazuki

 宝富士は体が柔らかくて、私にとってはやりづらいタイプ。この日も、なかなか四つに持ち込めず、ようやくまわしを取ってからは一気に攻めたのですが、土俵際で際どい勝負となって物言いがつきました。

 祈るように結果を待っていると、軍配は私に上がって、突き落としで勝利。このあと、全勝の横綱・鶴竜関が敗れて、10勝1敗で私と鶴竜関が並ぶという、思ってもいない展開となりました。

 今だから言えますが、優勝を意識したのは、この11日目ぐらいからでした。ヒザの調子を考えれば、当初「この場所は勝ち越し。あわよくば10勝くらいできればいいかな」って、思っていましたから。

 以降、取組後、私を囲む記者の数がどんどん増えていきます。そういうなかで、"優勝を意識しない"ということは、かなり難しいことでした。それでも、舞い上がることなく、鶴竜関の勝敗は意識しないで、「一日、一番」と自分に言い聞かせていました。

 そうして、13日目に220㎏の巨漢・逸ノ城を破って、12勝1敗。鶴竜関は11日目から連敗して10勝3敗。14日目に勝てば、優勝という状況を迎えました。

 相手は、激しい突っ張りが持ち味の松鳳山。その大一番を前にして、師匠がアドバイスをくれました。

「松鳳山はなかなか捕まえられない力士だから、自分から突っ張っていって相手をつかまえろ!」

 なるほど、と思いました。あえて、自分の得意の四つ相撲に持ち込まない――それが、勝機につながるんだ、と。

 実際、親方のアドバイスどおりの相撲を取って、私は松鳳山を撃破。14日目にして、初の優勝を決めることができました。

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