2020.03.05

フェンシング太田雄貴、北京五輪銀メダルの裏にあった「背水の陣」

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by AFLO

 直前まで日本で調整して試合の3日前に北京に乗り込んだ太田は、1回戦を15-4で勝って自分の調子のよさを確信した。次の崔との試合も、序盤で5-1の滑り出し。だが、「行けると思うとついつい調子に乗ってしまう悪い癖が出た」と5-6にされ、そこから連続ポイントを取りながら、向こうにも取り返されてしまう荒い展開になった。

 13-12からの微妙な突きは太田のポイント。だが、崔のビデオ判定の要求で覆って13-13に。同点になって気落ちしたところでさらにポイントを奪われ、13-14と王手をかけられた。

 その時、太田の頭の中には、高円宮杯で崔に敗れた嫌な思い出が浮かんでいた。だが、「同じような悔しい負け方は繰り返したくない」という気持ちが太田を冷静にさせた。

 次のポイントは、いつもなら外してしまうような突きをうまく決めた。そして、14-14からの勝負では、頭を下げる反則ギリギリの姿勢で1本を取りにいった。崔はすでにイエローカードが1枚出ているのでもう一度反則をすれば自分のポイントになる。そう考えて打ったギャンブルとも言える攻めだった。そしてそれは見事に成功し、太田は逆転勝利をもぎ取った。

 日本フェンシング協会はこの北京五輪に向けてフルーレの強化に集中し、500日合宿をする大きな勝負に出ていた。太田の心の中にも「ここで結果を出さなければ日本のフェンシングは終わってしまう」という、背水の陣にも似た気持ちがあった。