重量挙げの魅力に取りつかれた男。五輪でメダルに迫った池畑大の大誤算 (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • Photo by Hitoshi Mochizuki/AFLO

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 アトランタ五輪代表を決めた池畑は「日本選手でいちばんメダルに近いのは自分だとわかっているけれども、自分にできることをまっとうしよう、とだけ考えています。年齢的にもいちばんいい時期で最後の五輪だから、結果はおのずとついてくると信じています」と、落ち着いた表情で話した。その時の世界記録はトータル305kgで、300kg挙げればアトランタでメダル圏内に入ると考えられていた。池畑はスナッチ135kgクリーン&ジャーク165kgを目標にした。

 その歩みは順調に見えた。5月11日に行なわれた日本代表壮行競技会では、体重オーバー(本来の階級よりも上)の64kg級に出場。スナッチ135kg、クリーン&ジャーク170kgを挙げて、トータル305kgの同級日本記録を出したのだ。コーチや監督は「本番では302.5kgから305kgを狙わせたい。そうすればメダルに届く」と期待を寄せた。

 だが、池畑は5月末に十二指腸潰瘍を患い、1週間入院。そのうち、5日間は点滴だけで食事をとれなかった。アトランタに来て池畑は「退院後練習はできている。コンディションは95%まで回復した」と話したが、状況は厳しかった。

 ウエイトリフティングでは、エントリー時に自己ベスト記録を申請する。それは公認記録でなく、練習で挙げた記録でもいい。その記録をもとに、出場選手をAとBのグループに分類する。Bグループが先に競技を行ない、その後にメダル候補が集まるAグループが競技をする。そのエントリーの自己ベストを、池畑は295kgで申告した。普通なら体重オーバーで出した305kgで申告するところだが、プレッシャーを避けるためにあえて下げたのだ。

 その作戦が裏目に出た。目論見では295kgでも上位10名のAグループに入るだろうと考えていたが、他の選手が高い記録を申告したために、池畑はBグループになってしまったのだ。有力選手が出てくるAグループなら状況を見て戦略も立てられるが、Bグループではそれができない。池畑は一気に不利な状況に追い込まれた。

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