上村彩子アナが聞くのが怖かった13秒の真実「このタイミングで?」 (3ページ目)

  • sportiva●文 text by sportiva
  • 佐野隆●写真 photo by Sano Takashi

―― 学生時には、球場でビールの売り子のバイトもされていたんですよね。

上村 最初は、それこそさっき1回話に出た地元の親友が球場でアルバイトをやっていて、「一緒にやろうよ」って声をかけてくれて、楽しそうだなと思ったのがきっかけなんです。あと、大学と家の間に東京ドームがあった、というのもあります。売っている最中はいつもグラウンドに背中を向けているので試合は見られなかったんですけど、逆に、お客さんがどんな場面でどんな風に盛り上がるのか、肌身で感じることができてよかったです。今はあのとき見ていたお客さんと同じ目線で楽しんでいます。

―― アナウンサーを目指したいと思ったのはいつだったんですか。

上村 友人を通じて他局の深夜番組に「出ませんか?」と声をかけていただいて、番組内でアナウンススクールに通う賞をいただいたんです。スクールに通うことになったのが、「アナウンサーという職業の選択もあるんだな」って認識したきっかけというか。そこに行くまでは、アナウンサーってなれるものではないと思っていたんです。でも、実際にアナウンサーになっている方々の話を聞いて、あらためて楽しそうな職業だし、ちゃんと目指したらなれる職業なのかなって。それが大学1年生のときですね。より本格的に目指したのは、大学3年生のときに、いろいろセミナーを受けて、実際テレビ局の中に入って、魅力を感じてからです。

―― アナウンサーのお仕事を振り返ってみて、いかがですか。

上村 『S★1』を担当して丸2年がたつんですが、アナウンサーとしてスポーツニュースを読むだけなら誰がやってもあまり差は出ないと思うんです。でも私は、せっかくならちゃんと現場に足を運んで取材をして自分が伝えるスポーツの魅力をちゃんと感じ取りたくて。「伝える」という意味では、自分の力不足を感じることもまだまだありますけど、現場にいくことで伝えたいことがどんどん増えてやりがいを感じています。

―― これまで印象に残っている取材(お仕事)はたくさんあるかと思いますが、ひとつ挙げるとしたら、なんでしょう。

上村 1年前にサッカーのロシアワールドカップで日本が負けて、代表の皆さんが帰国した日に『S★1』でインタビューをすることになり、川島永嗣選手と昌子源選手にお話を聞かせていただいたんです。ベルギー戦での最後の失点を目の当たりにしたおふたりに、相手のゴールキーパーがコーナーキックをキャッチした時間から日本が失点するまでのわずか13秒に何が起こっていたのか、というのを聞く企画でした。それが印象に残っています。正直、自分で聞くのがつらくなるインタビューでした。

―― 帰国したばかりで、しかも当事者に聞きづらいということだったんですか。

上村 そうです。最初に「こういうことをやります」とスタッフから聞いたときに、「このタイミングで聞くの?」と思ってしまって。でも、このタイミングだからこそ聞きたいという番組の意図もありますし。それこそ私も試合を見ていて、自分も悔しかったし、昌子選手がグラウンドで泣いてうつぶせになった姿も見ていたので、それを数日しかたっていないのに聞くという...。ふたりともSNSとかでしょうがなく目に入ってきてしまうもの以外はまったくその映像を見ていない状態だったんです。企画の意図を説明したら、ふたりとも「えっ、今、これ見るんですか? なるべくなら見たくない」ということをおっしゃっていて。でも、ちゃんと私たちが聞く意味や、未来につなげたいという思いも受け止めていただいて、答えてくださったんです。その映像を見ているおふたりを間近で見ていて、私もつらかったです。でも、頭の中でいろいろ考えて言葉を紡ぎだしてくれるおふたりがいて、そういう瞬間に立ち会えたのはよかったなと思いました。そのおふたりには、それまで取材やインタビューで何度かお会いしたことがあったので、それもあって答えてくださったのかなとも思いました。他局のアナウンサーの方にも褒めていただけたんです。あの企画はよかったよ、って。

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