視聴率50%超で大騒ぎ。
ツール・ド・フランスに大統領も駆けつけた

  • 山口和幸●取材・文 text by Yamaguchi Kazuyuki
  • photo by A.S.O.

 個人タイムトライアルという種目は、チーム戦略に関係なく、個人の独走力がタイムとなって如実に表われる。アラフィリップはタイムトライアルをそれほど得意としていなかったが、この種目のスペシャリストであるトーマスに14秒の差をつけたのだから、まさにマジックとしか言いようがない。

 総合成績で2位につけるトーマスは、フランスファンにとって難敵だ。そのトーマスに対してアラフィリップがそれまでの1分12秒から1分26秒に差を広げたのだから、フランス中が歓喜した。

「信じられないよ。本当に幸せだ。このコースは自分に向いていると思っていた。でも、トーマスにこんな大差をつけて勝つことができるとは思わなかった」とアラフィリップ。優勝を決めたゴール直後は、チームスタッフと涙を流しながら抱き合った。

 今回のツール・ド・フランスは、この短めの個人タイムトライアルがターニングポイントとなり、誰もが想像しなかった思いもよらぬ展開に向かっている。フランス勢の34年ぶりの総合優勝が夢で終わるとは思えなくなってきた。

 翌日は息つく暇もなく、「ピレネーの最難関」標高2115mのツールマレー峠をゴールとするステージだった。ここで、フランス国民がさらなる劇的シーンを目撃する。グルパマ・FDJのティボー・ピノ(フランス)が最後の上りで抜け出して、4年ぶり3度目の区間優勝を果たしたのである。第14ステージの表彰式では、エマニュエル・マクロン大統領が駆けつけて選手を祝福した。

 横風が吹いた第10ステージで、ピノは他チームが採った分断作戦の罠にハマり、その日だけで1分40秒遅れとなり、総合3位から11位に陥落してした。そこから、この日の勝利で6位に浮上。ただ、依然として優勝を狙える位置ではなかった。

「ただひたすら、ステージ優勝を目指してツールマレーを上った。この勝利で再びモチベーションを高めることができたので、パリでは3位までの表彰台を目指したい」(ピノ)。

 マイヨ・ジョーヌを着るアラフィリップは必死の形相で食らいつき、ツールマレー峠をわずかな差でピノに続いた。6秒遅れの区間2位。だが一方で、たまらず脱落したのが優勝候補のトーマスだった。トップとの差は2分02秒まで広がり、総合優勝に向けてアラフィリップがまた一歩前進した。

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