記録と記憶。平成の大相撲史に残る名勝負。
白鵬を稀勢の里が止めた日

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by Kyodo News

 連勝記録は途絶えたものの、白鵬はこの場所を優勝し、翌年の初場所も制して自身初の6場所連続Vを飾った。一方の稀勢の里は、この場所は10勝5敗で三役復帰を決めたものの、大関昇進までの道のりは長かった。ようやく1年後の九州場所で、場所前に師匠の鳴戸親方(元横綱・隆の里)が急逝した悲しみを乗り越え、大関昇進を決めた。

 そこから横綱に上り詰めるまでは、さらに約5年もの月日を要した。常に白鵬を筆頭としたモンゴル勢が壁となり、幾度となくはね返される失意の日々でも、稀勢の里は「絶対に逃げない」という自らの信念を貫いた。

 その真摯で不器用な生き方がファンの共感を呼び、その声に押されるように2017年の初場所で初優勝。そして、横綱昇進後に初めて土俵に上がった春場所で、左胸と腕に重傷を負いながら達成した涙の優勝につながった。結局、優勝はその2回に終わったが、いずれも平成の名場面と言える鮮烈な記憶を土俵に刻んだ。

 白鵬が今も最強横綱として君臨している一方、稀勢の里はケガの代償が大きく、今年の初場所で引退した。白鵬の42回の優勝という大記録と、稀勢の里が残した記憶の数々。記録か記憶か。あの9年前の九州でぶつかったふたりの名勝負は、令和の力士への問いかけでもある。

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