10代クライマーが次々と台頭。でも、女王・野口啓代の背中はまだ遠い (3ページ目)

  • 津金壱郎●取材・文 text by Tsugane Ichiro
  • photo by AFLO

 白い歯をこぼしながら報道陣からの質問にハキハキと答える森の表情は、以前に比べて格段に明るい。その森と「最近仲良くなったんです。ずっと刺激になっています」と話すのは、今大会で初めて8名のファイナリスト入りし、5位になった15歳の中川瑠(なかがわ・りゅう)だ。

 森の一学年下になる中川が、20歳未満の選手のための『世界ユース』に出場するには、2年に1度は森と同じカテゴリーで日本代表の座を勝ち取らなければいけない。だが、中川は「同じ世代にいてくれるから、私も強くなれている」と打ち明ける。

 これは「森秋彩年代」に限ったことではない。

 昨年はW杯リードでファイナリストを経験し、今年1月のBJCで4位、この大会では3位と成長著しい16歳の平野夏海は、五輪強化選手の伊藤ふたば(今大会9位)と同学年。平野が出場できなかった2年前の『BJC2017』で優勝した伊藤との距離感について訊ねると、「他の人と自分を比べたりしないですが、追いついたというよりは、少しは戦えるようになったかなと思います」と自信をのぞかせる。

 国内のスポーツクライミングシーンは、各年代に国内トップ選手とわたり合える選手がいることで、他の若い選手たちが刺激を受け、同年代で切磋琢磨しながら実力を伸ばすことにつながっている。若い選手たちがトレーニングを積み続ける高いモチベーションを維持できているのは、「国内トップ=世界トップ」という構図をもたらしている第一人者の存在があればこそ。「オリンピック化」による重圧を受け止めながら、道を切り開く野口啓代の背中は、まだまだ遠く、そして大きい。

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