貴景勝が継承した「貴乃花魂」。
元親方との4年間で得たもの

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by Kyodo News

 報徳学園中学に進学して中学横綱になると、高校相撲の名門・埼玉栄高校では世界ジュニア選手権で無差別級を制覇するなど7つのタイトルを獲得。そして高校3年の9月には、親子で憧れてきた貴乃花部屋に入門し、初土俵から10場所目で幕下優勝を決めて新十両に昇進するなど出世街道を歩んできた。そんな活躍の原点となる教えを授けてくれた父に、貴景勝は優勝インタビューで感謝の思いを伝えた。

「小さいころからプロで活躍することが親子での目標で、少し結果を出すことができたので本当によかったなと思います。小さいころから何でも一緒にやってきましたから、その恩を少し返すことができたのかなと。あらためて、ありがとうと言いたいです」

 一方の一哉さんは、初土俵から4年目の優勝について「貴乃花親方から『力士としてどうあるべきか』ということを、若い時から叩き込まれたことが大きかったと思います」と振り返った。

「貴乃花親方の指導は、わかりやすく言えば『よく食べ、よく寝る』ということなんです。それは、1日24時間をすべて相撲に捧げるためにはどう生活するかということ。たとえば食事では、炭酸飲料をがぶ飲みしない、肉ばかり食べずに魚や野菜をバランスよく食べなさいといったように、生活のすべてを相撲を軸に考えることを教えていただいたんです。横綱として相撲をあそこまで極めた方が、1日の時間をどう割り振って使っていたか。あれだけの実績を残せた理由を間近で見て、教えられたことが非常に大きかったと思います」

 稽古場に限らず、力士としての生活の仕方を4年間で徹底的に指導されたことで、貴景勝は独自に栄養学を学び、食生活を管理して師匠の教えを進化させた。貴乃花部屋での4年間の積み重ねがあったからこその栄光だったのだ。

 一哉さんが信頼し、大切な息子を預けた貴乃花親方は協会を去った。それでも一哉さんは、「入門したばかりなら不安はあったと思います。ですが、息子も高校を卒業してから4年経ち、大学に進んでいたら就職する時期です。相撲は監督などがサインを出して動く競技じゃありませんから、土俵の上ではひとりで闘わなくてはいけません。そういう意味でも、ひとり立ちする時期だったと思います」と父親としての心情を明かし、「貴乃花部屋での4年間なくして今日はありません」と感謝を述べた。

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