改革への期待と現実。貴乃花親方「引退」までの8年間を振り返る (2ページ目)

  • text by Sportiva
  • photo by Kyodo News

 審判部は「土俵の番人」とも呼ばれ、勝負判定や番付編成はもちろん、無気力相撲の監視に至るまで、競技としての大相撲の根幹を支える重要な部署だ。現役時代に誠実な相撲で「クリーン魁傑」と呼ばれた放駒理事長は、自身に近い相撲道を貫いた貴乃花を高く評価し、一門離脱の過去の恩讐にとらわれず審判部長に任命した。

 しかし、大相撲はさらなる激震に見舞われる。2011年2月に発覚した「八百長メール問題」で現役関取の八百長関与が発覚し、春場所が中止になるなど存亡の危機に見舞われた。理事長は八百長に関与したと認定した力士らの処分を下し、再発防止に向けて昼夜問わず奔走した。だが、このときも土俵を司るトップだった貴乃花から再発防止策は出されず、外部の第三者委員会に委ねる姿勢を崩さなかった。

 貴乃花を支持していた親方衆が期待していたのは、「土俵改革」だった。真っ向勝負で22回優勝した横綱・貴乃花は、協会内で絶大な尊敬と支持を集めていた。貴乃花が引退後、朝青龍、白鵬が台頭し、土俵内外での振る舞いが問題視されはじめたため、「若貴時代」のような土俵の充実の復活を貴乃花に託していた。

 審判部長になったことで、その期待はさらに高まっていた。「閉鎖的」と揶揄される相撲協会だが、各部署の運営に関しては所属する部長の裁量に委ねている。また、よほどの無理難題、荒唐無稽な提案を除いて、時の理事長は各部長の意見を認めてきた伝統がある。だからこそ、八百長問題で失墜した土俵への信頼回復へ、貴乃花の手腕が注目されていたが......期待に応える具体的な動きを放駒理事長へ提案することはなかった。

 貴乃花が具体的な「改革」に動いたのは、2012年初場所後、北の湖親方が理事長に復帰し、大阪場所担当部長に任命されてからだった。

 前年の春場所は八百長問題で中止になっており、イメージ回復と客足を戻そうと場所前に吉本新喜劇に出演。さらに初日から千秋楽まで連日、着物姿で正面ロビーに立ちファンと握手、サインをするファンサービスを行なった。絶大な人気を誇る貴乃花の握手会に、ファンは連日のように長蛇の列を作った。これは翌年の春場所でも実行し、イメージ回復に多大な貢献をした。

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