王者フルームの耳打ちで状況は一変。ツール2018は親友トーマスが優勝 (3ページ目)

  • 山口和幸●取材・文 text by Yamaguchi Kazuyuki
  • photo by ASO

 アルプスでの戦いが終わり、大会が終盤のピレネー目前に2回目の休息日を過ごしたあたりから、フルームの発言も変わってきた。

「僕たちはチーム内で総合優勝者を出すことが重要なんだ」

「これまでG(トーマスの愛称)にどれだけ助けられたことか。今度は僕がその恩返しをしたい」

 もちろん、内面にはもどかしさもあったはずだ。他チームのライバルのように実力でねじふせることはできない。親友の不調やアクシデントを期待することもできない。大会最多タイの総合優勝を狙うには、一番やっかいな状況に陥っていた。

 2012年、チーム・スカイはエースにブラッドリー・ウィギンス(イギリス)、アシストにフルームを起用して、見事にふたりでワンツーフィニッシュを飾った。ただしそのとき、山岳で遅れがちなウィギンスに苛立ったフルームが後ろをふり向いて、「早く来い!」というようなしぐさを見せたことがある。そのときはイギリス選手、またチームとしてツール・ド・フランス初制覇を成し遂げたが、翌年はウィギンスがツール・ド・フランスに不出場。2013年はエースとなったフルームが初優勝を挙げることになる。

 フルームとウィギンスが衝突した過去のことを「僕はよくわからない」とトーマスは言ったうえで、「フルーミー(フルームの愛称)との信頼関係は厚いよ」とチームワークを強調した。

 そしてピレネーの第17ステージで、今大会を決定づける転機が訪れる。ゴールまで残り4kmほどの地点だった。

 フルームがトーマスに、「今日は調子が悪い」と耳打ちした。それは、エースのポジションを譲った瞬間だった。それを受けたトーマスは、単独で先行していたライバル選手を追った。最終的にトーマスはパリまでマイヨ・ジョーヌを手放すことなく走り切り、ツール・ド・フランス初優勝を手にする。

「僕がマイヨ・ジョーヌだって? それは夢だったかも知れないが、まさか手に入れることができるなんて考えたこともなかったよ」

 パリの表彰台でトーマスは、英国旗ではなく、出身地ウェールズの旗を背負って万感の表情を浮かべた。

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