王者フルームの耳打ちで状況は一変。
ツール2018は親友トーマスが優勝

  • 山口和幸●取材・文 text by Yamaguchi Kazuyuki
  • photo by ASO

 ただし、チームとしては戦略に幅ができて有利ともなり、わざわざトーマスを遅らせることはあり得ない。フルームがトラブルなどでこれ以上遅れた場合には、エースをトーマスに変更するのも戦術だ。

 戦いは中盤の勝負どころ、アルプスへ――。第11ステージの山岳でトーマスはこれまでのようにフルームを献身的にアシストしながら、残り500mで自らのステージ優勝のためにアタックした。2位以下をわずかに引き離して見事にステージ優勝を果たし、それまでの首位選手が遅れたこともあって総合1位に躍り出る。フルームも総合2位に浮上したが、トーマスとの差は1分25秒まで開いた。

「僕の人生のなかで、まさに最高の1日になった」と、ゴール後にトーマスは語る。

「あと数日はマイヨ・ジョーヌを着ていたい。フルームは3大大会を計6度も制している選手だから、僕とは経験値が違う。だから、フルームを勝たせるために僕が走り続けることに変わりはない」

 優勝者インタビューでも、トーマスは自らをアシスト役だと公言した。だが、フルームの調子によってはチーム内でのエース交替もあり得るだけに、今後の役割分担は微妙になっていく。

 さらにその翌日、トーマスはフルームを含む有力選手と最後の峠を上り、ラストスパートしてトップでフィニッシュ。これもチームプレーとして許せる範囲の行動ではあるが、トーマスは1着のボーナスタイムを含む14秒の差をさらにつけ、総合成績で2位フルームとの差を1分39秒とした。

 32歳のトーマスと、33歳のフルーム。プロデビュー当時はバルロワールドという格下チームで一緒だった。その後、イギリス選手をツール・ド・フランスで総合優勝させるために発足した現チームへと移籍し、そこでも活動をともにする。家も近いので、一緒に練習するほど仲もいい。フルームのこれまでの戦歴の多くは、他チームならエースを務められる実力を有するトーマスが見事なまでにサポートしてきた功績によるところが大きい。

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