王者フルームの耳打ちで状況は一変。ツール2018は親友トーマスが優勝

  • 山口和幸●取材・文 text by Yamaguchi Kazuyuki
  • photo by ASO

 23日間かけて真夏のフランスを1周する世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランスが7月29日に終幕。第105回大会は、誰もが予想しなかった結末になった。イギリスのチーム・スカイでこれまでアシスト選手として走っていたゲラント・トーマス(ウェールズ)が初めて総合優勝を果たしたのだ。

ゲラント・トーマス(左)の総合優勝を祝福するクリス・フルーム(右)ゲラント・トーマス(左)の総合優勝を祝福するクリス・フルーム(右) チームには4年連続5度目の総合優勝を目指すクリス・フルーム(イギリス)がいた。ツール・ド・フランスの最多優勝は5回で、これまでに自転車競技界の伝説的選手ばかり4人(ジャック・アンクティル、エディ・メルクス、ベルナール・イノー、ミゲル・インデュライン)が仲良く5勝で並んでいた。

 あと1勝すれば、このスポーツの伝説になれる――。フルームは5月に開催された同じ規模のレース、ジロ・デ・イタリアでも終盤に逆転して総合優勝している。ファンの関心はそこに集中していた。

 ところが、フルームは第1ステージの残り5km地点で発生した落車に巻き込まれ、いきなり51秒の遅れを取る。さすがにゴール間近とあって大集団がスピードアップしていて、トーマスはフルームのところにとどまることなく、その場の流れで先着する。

 今回のチーム・スカイの戦略はこうだ。フルームが絶対的なエースであることはまぎれもない。残り7選手がアシスト役。ただし、トーマスはサブエースとしてある程度、自分の総合成績のために走ることを許された。

 トーマスは他チームならエースクラスの実力を持つ選手だ。実際に2017年のツール・ド・フランスでは初日の個人タイムトライアルでトップタイムを出し、4日間にわたって首位選手が着用する黄色いリーダージャージ「マイヨ・ジョーヌ」を手中にしている。そして大会5日目に、チーム内でフルームにそれを譲り渡すという作戦で成功を収めた。

 序盤から常に上位でゴールする安定感を見せるトーマスに対して、フルームはいささか運がなかった。他選手の落車で停滞したり、機材故障でわずかに遅れたり。大会前半の9日間が終了した段階で、フルームは1分42秒遅れの総合8位。アシスト役のトーマスは43秒遅れの総合2位にいて、フルームの立場を危ういものとする。

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