ボルダリングだけでは東京五輪で勝てない。
「リード」ってなんぞや?

  • 津金壱郎●取材・文 text by Tsugane Ichiro
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 是永は昨年、ワールドゲームズで金メダルを獲得し、リードW杯でも中国・廈門(アモイ)大会で初優勝するなど、リードW杯年間ランク3位。五輪強化選手の男子6人のなかで、ただひとりリードをメインにしている実力者は「W杯で優勝しても国内では勝てていなかったので、ようやく払拭できた」と、ほほを緩めた。

 森は昨年3月のリード日本選手権では完登目前でフォール(落下)し、獲得高度は優勝した野口啓代と並びながらもカウントバック(準決勝の順位)により2位。今大会では決勝に進出した8選手で唯一の完登をして、リベンジを果たした。昨年4月からのリードでの連勝を7に伸ばし、「今年もリードで勝ち続けたいです」と意気込んでいる。

 リードの課題(ルート)に使われるホールド数はボルダリングの約5倍以上だが、登っていくための一手一手の強度はボルダリングほど高くない。中盤以降に順位のふるいにかけるため、強度が高めなムーブ(動き)を求めるセクションはあるものの、リード日本選手権に出場する選手たちが仮にリードの課題を10手ずつ区切ってトライしたとしたら、ほとんどの選手は登り切ってしまうはずだ。しかし、それをスタートからとなると話は変わるため、リードでは持久力が重視される。

 前腕の持久力は、一手伸ばして登るたびにすり減っていく。是永は身長160cm、森は身長154cmと小柄で、ほかの選手が足を残したまた届くホールドでも飛びついて取るため、足が宙に浮くことがある。

 足が浮けば、その分だけ体重を支えなければならず、前腕への負荷は増える。それでも是永や森が誰よりも高度を稼いだのは、リードをメインにすることで持久力が単純に優っていただけではなく、持久力の消耗を最小限にとどめるテクニックや経験に長けていたからでもあった。

 リードは登りながら、身につけたハーネスに結んだロープを、ルート上に2メートルほどの間隔で設置された確保支点に必ずクリップしていき、最上部の終了点にクリップして初めて完登となる。クリップを忘れると、その時点で競技終了。クリップするときは片手と両足でバランスを取りながら、もう一方の手でロープを手繰って確保支点にかける。

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