渡部暁斗、つぶれる覚悟で
「ドイツ軍団」に突っ込んだ戦いに悔いなし

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA

 渡部はトップに立ったが、クロスカントリーが強いフレンツェルとは24秒差で、さらにその後ろ34秒差までに、ヨハネス・ルゼックとファビアン・リースレの強豪ドイツ勢が続く状況だ。

「逃げられるかどうか微妙なタイム差ですね。逃げ切れる確率は低いと思うけど、後悔をしないように、これからどうするか考えます」とジャンプが終わった段階で渡部は苦笑していた。

 ノーマルヒルの、ジャンプは、ほぼ同じ1m台中盤の向かい風が吹いていた。W杯上位5人の中で渡部はひとり飛び抜けた105.5mを飛び、トップに28秒差の3位につけた。

 ただ、先に飛んでいたライバルであるフレンツェルのときは、2mを超える向かい風をもらって106.5mを飛び、渡部に8秒差の5位につけてきたのが誤算だった。

 予想通りラスト800m過ぎから逃げ切られて2位に終わった。ノーマルヒルではフレンツェルひとりが相手だったが、今度はドイツ勢3人が協力して追いかけてくる。その中で勝つ方法を探すのは、極めて難しいことはわかっていた。

 それでも渡部は、果敢に攻めの走りをした。最初の1.7km地点では、フレンツェルとの差を2秒広げた。だが、そのすぐあとでドイツ勢3人が集団になると、彼らは互いに引っ張り合いながら渡部に徐々に近づいてくる展開を作った。

 結局、3周目に追いつくと、その後は最大7人の集団で競り合いになり、最終周回のラスト1km付近で、他の選手と接触してバランスを崩した渡部は一気に引き離され、トップから12秒5差の5位で終わった。

「ゴチャゴチャした中での接触で遅れてしまいましたが、あれで何かが変わったというのはないですね。あの時はもう脚にも限界が来ていたから、離されなくても5位が4位に変わったくらい」

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