スポーツ心理学者が解明する「アスリートの暴言」問題と、その防止法 (4ページ目)

  • 大地功一●取材・構成 text& by Oochi Koichi
  • photo by Fujita Masato

 子供の頃から自分自身についてよく理解し、思考や感情をコントロールして、周りと協力しながら競技を通して人として成長していく。そのような教育を、メンタルトレーニングを通じて力を入れていくべきだと言われています。「アスリートファースト」という言葉が先走りしていますが、そこで履き違えて、アスリートは勝てばいい、物質的環境をよくすればいいとなっている。けれども実際は、アスリートを"中心"としなければ問題が起きます。どんな言動が適切でロールモデルとなるのかを教えてあげるのがアスリートファーストであって、指導者が勝ちたいから駒のように選手を扱うのはコーチファーストですよね。

 これまで人格形成という枠組みを持った指導者が少なかったので、従来の指導は努力と根性の反復練習。スキルを上達させ、海外で通用する選手を育成していますよ、というのがクラブの売りになっています。一方で、ジュニアのクラブチームで全員を試合に出場させるところもあり、それは勝ち負けではなく学んだことを発揮できる場面を与えます、という姿勢の現れです。特にユース年代でそういう教育をしていけばいいんですが、指導者に知識がないので難しい。

 海外のスポーツ心理学の教科書だと必ず「character development」(人格形成)、「good sporting behavior」(スポーツパーソンシップ)、「aggression」(攻撃性)などの章を設けているのですが、日本の教科書にはない。日本は形式的な心理的スキルの教授、例えばイメージトレーニング、目標設定、リラクゼーションの方法を講習会形式でどう落とし込むかが重視されています。けれども、チームを中心に据えて、各選手や指導者には何が必要なのかコンサルテーション(相談)をしながらプログラムを作っていく方が効果的だと考えています。

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