【月刊・白鵬】横綱が語る、稀勢の里の激闘と「浅田真央の引退」 (2ページ目)

  • 武田葉月●構成 text&photo by Takeda Hazuki

 この日も左肩にテーピングを巻いた状態でしたが、本割では突き落としで照ノ富士に勝利。見事2敗をキープして優勝決定戦に持ち込むと、今度は小手投げで照ノ富士を破って、なんと2度目の優勝を決めたのです。

 あまりにも劇的な優勝に、私も驚くしかありませんでしたね。厳しい状況を打ち破って土俵上に立つ稀勢の里の堂々たる姿に、ただただ感服させられました。

「横綱の器を持つ男」と言われ続けていた大関時代の稀勢の里。彼がもうひとつ上を極められない理由を問われると、私は彼の"精神面"を挙げていました。実力が申し分ないのは誰もが認めるところでしたが、横綱を狙う気持ちがほんの少しだけ欠けているように思えたからです。

 けれども、初場所(1月場所)で初優勝を飾って、その後の横綱昇進を機にして、彼は間違いなく変わったように思います。

 横綱は責任のある立場です。かつて、長い間ひとり横綱を務めていた私は、常に「(横綱の自分が)休んではいけない。自分ががんばらなければいけない」という気持ちでいっぱいでした。もちろん、今も変わらぬ気持ちでいますが、その重圧は相当なものでした。

 この春場所、私が途中休場し、鶴竜、日馬富士と他の横綱も調子が上がらない中で、稀勢の里は「自分ががんばらなければいけない」という気持ちを強くしていったのではないでしょうか。賛否はあるかもしれませんが、それが14日目の強行出場、千秋楽の大逆転劇へとつながったのだと思います。

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