プロ・内村航平の武器は言葉。「もうメディアに出る恥ずかしさはない」 (4ページ目)

  • 元永知宏●文 text by Motonaga Tomohiro

内村が思いを言葉にするようになって日本代表は強くなった

 以前の内村に、自分から言葉で何かを伝えたいという気持ちはなかった。常人にはとてもできない演技をし、見る者の心を動かす19歳の天才アスリートなら当然かもしれない。言葉よりも体で表現するのがアスリートの仕事だとも言えるからだ。

 2008年北京オリンピックのとき、体操日本代表で最年少だった内村は、翌年の世界選手権で個人総合金メダルを獲得した。その後8年間は負け知らず、ずっと頂点に立ち続けている。しかし、団体では頂点に立つことができず、ずっと悔しい思いをしてきた。だから、「個人よりも団体の金メダルを!」と言い続けてきた。

「個人で獲っても喜びは自分だけだし、失敗しても響くのは自分だけ。一致団結していい演技で獲れた金メダルのほうが相当にうれしいと思う」

 しかし残念ながら、エースの力だけでは日本は団体で勝てないという現実があった。内村はその背中で、その演技でチームメイトをリードしようとしたが、どうしても金メダルに届かない。2010年世界選手権も、2012年ロンドンオリンピックも日本は2位に終わった。そのころ、内村は言葉の大切さに気づいたのではないだろうか。

 たとえば、後輩の加藤凌平にこんな言葉をかけている。

「自分ひとりの力じゃどうしようもできない。お前は絶対に必要だということを伝えたかったんです」

4 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る