喜びは一筋の涙で。稀勢の里を横綱に導いた亡き師匠の「土俵の美」 (4ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji photo by Kyodo News

 一方で、継承した隆の里魂が原因で、相撲協会の幹部から苦言を呈されることもあった。「他の部屋の力士と情を通じることになる」と出稽古には否定的だった亡き師匠。稀勢の里も大関昇進後に5度の綱取りに失敗し、その度に「出稽古に行かないからだ」「稽古方法を改めるべき」などと批判されたが、基本的な姿勢を変えることはなかった。それには、「師匠から受けた指導で上を目指したい」という思いがあったからだ。

 稽古場では何度も「俵の外は断崖だと思え」と言われ続けてきた。稀勢の里は千秋楽、左四つで猛然と寄ってきた白鵬を土俵際で左からすくい投げ、初代・若乃花から受け継がれてきた教えを実戦。師匠の教えが正しかったことを証明した驚異の粘りが、横綱昇進を決定づける白星をもたらした。

 23日の横綱審議委員会で満場一致で、師匠と同じ30歳で横綱に推挙され、師匠に対し「感謝しかありません」と頭を下げた。師匠は、亡くなった年の元日に「上昇志向を忘れるな。決して満足するな」と稀勢の里を諭している。その言葉に応じるように、新横綱はこう決意を語った。

「常に師匠の言葉は頭の中にあります。中途半端な気持ちで稽古場にはいられない」

 亡き師匠と横綱の二人三脚。そのドラマはこれから本番を迎える。

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