病室での断髪式。異色のモンゴル出身力士・時天空、涙の引退秘話 (5ページ目)

  • 武田葉月●文 text&photo by Takeda Hazuki

「現役復帰にこだわることがすべてではない。自分がひとりの社会人として仕事に励み、精一杯生きていく姿を見せることも、彼らの励みになるのではないか......」

 時天空は、引退を決断した。およそ1年前、復活を期して落とした髷が、再び結われることはなくなった。

 重い決断を下したあと、彼は忘れられない一番について振り返った。それは、2003年の初場所(1月場所)、同じ部屋の豊ノ島と三段目優勝をかけて戦った「決定戦」である。

「自分より半年前に入門していた豊ノ島に対して、ずっと『負けたくない』という気持ちでやってきました。だから、あの一番で勝って、彼にやっと追いつけたことがうれしかった」

 当時のことを感慨深く語ると、こらえていた涙が時天空の頬にこぼれ落ちた。

 長く幕内で活躍していた豊ノ島も現在、アキレス腱断裂という大ケガによって療養中の身にあるが、身近にライバルがいたことが、時天空のエネルギーとなり、厳しい相撲界で戦う糧となっていたのだ。

 引退後は、時天空改め、間垣親方となって後進の指導にあたり、秋場所からは相撲協会の仕事もこなしていくことになった。

「悔いを残してしまった分、若い力士たちを指導していくなかで、自分も一緒に成長していけたらいいな、と思っています」

 最後は笑顔でそう語った時天空の、新たな挑戦が始まる。

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