「もう2度とやりたくない」王者・内村航平を追い詰めた個人総合の激闘 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA

「オレグの得点は見ないようにしていたけど、場内アナウンスで聞こえてくるので何となく計算してしまい、平行棒では『自分も同じように16点以上を出さなければ最後の鉄棒で追いつけなくなる』と思って点数を意識してしまった」

 内村はそう振り返ったが、演技そのものは丁寧なものだった。だが着地で一歩前に動いてしまい、15.600点にとどまり、合計では0.901点差まで開いた。致命的な得点差に思えたし、見ている人たちにも「負けるかもしれない」という不安がよぎった。

 そんな追い詰められた状況の中、内村は最終演技者のベルニャエフの前の5番手で鉄棒に向かい、4度の離れ技をしっかり決めると、着地もピタリと決め、笑顔とガッツポーズが出た。得点は15.800点。合計を92.365点にして、ベルニャエフの演技を待つだけになった。

 それでも状況は厳しかった。最終演技者のベルニャエフがトップに立つために必要な得点は14・899点。彼は予選の鉄棒で、15・133点を出していて、普通にやれば逃げ切れる計算だった。

「鉄棒に関して、五輪前に高い難度の構成は練習していなかったし、この演技で勝負すると決めていたので。点差はわかっていたけど、自分の演技をすれば結果がついてくるという気持ちでいました。だからやる前は、いつも通りにやることと着地を決めることしか考えてなかった。そういう気持ちを貫くことは、今までで一番できた試合だったと思います」

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