ありえない事態に記者ぼう然。ツール・ド・フランスに「走る」激震 (2ページ目)

  • 山口和幸●取材・文 text by Yamaguchi Kazuyuki
  • photo by AFLO

 現地のサルドプレス(プレスセンター)では激突シーンはリアルタイムで映し出されず、いきなり画面のなかでマイヨ・ジョーヌのフルームがランニングしているのだから、全員があっけにとられた。私自身の四半世紀の取材歴のなかで、間違いなく3本指に入るハプニングだ。1989年のプロローグに前年の覇者でありながら遅刻したペドロ・デルガド(スペイン)。2003年に傾斜地を突っ切ってピタリと集団グループに復帰したランス・アームストロング(アメリカ)。そして今回のフルームのランニング――。共通しているのはすべて、「マイヨ・ジョーヌを着ている強豪選手」ということだ。

 このアクシデントで大きく遅れたフルームは、暫定発表で首位から陥落。だが、審判団の審議の結果、救済処置でその座を守ることができた。

「モン・ヴァントゥはサプライズ満載だ。自転車が壊れてしまったから、走るしかないよね。スペアバイクが到着するまで5分もかかった。このような裁定をしてくれた主催者に感謝したい」とフルームは語る。

 勝利を目指すフルームのあくなき執念に対し、現地のサルドプレスではベテラン取材陣から失笑が起きた。「元ケニア国籍の南アフリカ育ちだろ」という、フランス人エリートらの差別意識も見え隠れする。しかしあの行為は、真に勝利を目指すフルームの純粋さがそうさせたのだと思う。

2 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る