日本出身力士10年ぶりV。大関・琴奨菊の初優勝を支えた人々

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji photo by Kyodo News

 もう一人は先代の師匠(元横綱・琴桜)だ。出会いは小学校2年の時、福岡市内で開かれた佐渡ヶ嶽部屋のパーティーだった。「大きくなったら、うちに来るんだよ」と声をかけられ感激。以来、試合など節目、節目に電話で声をかけてくれたという。中学から高知・明徳義塾へ相撲留学し、中学横綱に輝き、高校でもタイトルを獲得した。他の部屋からも誘いはあったが、子供の頃から目をかけてくれた佐渡ヶ嶽親方との絆を守った。

 入門してからは、厳しい指導で育てられた。そんな先代は07年8月14日に亡くなった。呼び上げの時、両手を合わせる。勝った時、土俵下で目を閉じる。いずれも亡き祖父と先代へ感謝の祈りを捧げているという。戦う前は「見守ってください」。勝負が終わった時は「ありがとうございました」。勝ってもおごらない姿勢は、そんな天国への感謝が背景にある。

 初優勝で3月の春場所は、綱取りが期待される。2場所連続Vなら一気に横綱昇進の可能性が広がってくる。小学校の卒業文集に「将来の夢は、相撲界に入って相撲取りになることです。そして横綱になって、明治神宮で土俵入りしたいです」と書き記した琴奨菊。

「つらい時も成績が残せない時でも応援いただき、今、ここに立っていることがうれしい。感謝しかない」

 優勝インタビューでは師匠、両親、ファン、後援者……あらゆる人への感謝を述べた。“ありがとうございます”その心を胸に、春場所で子供のころから抱いていた大きな夢に挑む。

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