迷走する新国立競技場。ザハ案になぜ決まり、白紙撤回されたのか

  • text by SPORTIVA 日本スポーツ振興センター/AP/アフロ●写真提供

山嵜 縮小して、五輪期間中だけは仮設スタンドを付けるという案にしているんです。たぶん彼女にしてみれば忸怩(じくじ)たる思いのデザインになっていた。五輪期間中は完成形ではなく、仮説スタンドが付いた変なかたちになっていたんです。世界中が注目するオリンピックなのに、彼女が見せたいデザインではないものが見られていたわけです。そして大会が終わったら、それを取り外して彼女のオリジナルデザインになった。だけど、それを彼女は呑んでいるわけだから。

杉山 縮小案を呑んだわけですね。

山嵜 そういう前例があるのだから、話し合いの仕方はいくらでもあるはずなのに、たぶん全然できていなかった。結局、発注する側、JSCや組織委員会のほうに「五輪や競技場をこうしたい」という明確なビジョンがない。そのような五輪のビジョンがないと、これから他の競技施設でも似たような問題は出てくるような気がします。

杉山 「こういうものを作ってくれ」という意思を何も感じないですよね。それを誰一人全然打ち出せないから、受け身になっちゃうというところがある。

山嵜 今のところ、他の競技施設もお金の話に終始していますが、その前にどうしたいかというビジョンが開催国である私たち日本人に見えてこないし、ストーリーも届いてこない。

杉山 よくスポーツ文化ということを口ではみんな言いますが、スタジアムなんかその最たるものじゃないですか。

山嵜 そうです。先日、ボリス・ジョンソンというロンドン市長が東京に来たんです。今、イギリスからのプロモーションが盛んです。これから東京で五輪開催の仕事がいっぱい発生する。そこで前例としてロンドン五輪の成功があるから、英国政府が主導して様々な企業がアプローチしている。実際、これから東京もロンドンの力を借りるんだろうけれども、明確なビジョンがないと、新国立競技場で起きたのと同じ問題が起こると思います。
(つづく)

【profile】
山嵜一也(やまざきかずや)
1974年東京都生まれ。2001年単身渡英。「アライズ アンド モリソン アークテクツ」にて、ロンドン五輪(招致マスタープラン模型、レガシーマスタープラン、グリニッジ公園馬術競技場現場監理)やキングスクロス セントパンクラス地下鉄駅改修などに関わる。2013年1月帰国。山嵜一也建築設計事務所主宰。女子美術大学非常勤講師。 
山嵜一也ツイッター:https://twitter.com/YamazakiKazuya

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