東京五輪から51年。ガンと闘う「名花」ベラ・チャスラフスカ

  • 長田渚左●文 text&photo by Osada Nagisa

 4月21日に腹部に強い張りを感じたという。翌日、病院に行くとただちに手術の日取りが決められ、5月15日、8時間に及ぶ手術で膵臓、胃、胆のう、肝臓など5カ所を切り取った。

 私は居ても立ってもいられなかった。すぐにでも彼女が住むチェコに行きたかったが、もし、やせ衰えたチャスラフスカさんの弱々しい姿を目の当たりにしたら、私は何を言えばいいのか、何を言ってあげられるのか、何を言えば慰め、元気づけられるのか、まったく自信がなかった。どうすればいいのか。心底悩んだ。そして、あるプレゼントを思い付いた。

 日本を愛するチャスラフスカさんに、日本の友人たちの応援メッセージを撮影したビデオレターを届けようと思ったのだ。そこに2012年3月に彼女が中心となってチェコに招待した、東日本大震災で被災した岩手県の陸前高田市と大船渡市の子供たちからのメッセージも入れることにした。私はビデオカメラを抱えて、チャスラフスカさんの体操仲間や友人たちの声を集め続けた。皆、事情を察して気持ち良く協力してくれた。

 この時点で、まだ彼女にどこで、どんな状況で会えるのかは分からなかった。病院ならばビデオをテレビに接続して見られるのだろうか? そもそもチェコの映像機器と日本のものは適合するのだろうか? せっかく日本の友人たちの声と映像を集めたのに、結局は見せることができなければ意味がない。確実に映像を見せるには、どんな機材を準備していけばいいのか。とりあえず映像を編集したDVDなど、3種類の再生パターンを用意して、パソコンを抱え、すべて手荷物に入れて飛行機に乗り込んだ。

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