【大相撲】打倒白鵬に燃える稀勢の里、豪栄道の秘策とは? (2ページ目)

  • 福留崇広●文 text by Fukutome Takahiro
  • photo by Kyodo News

 17歳9か月で新十両、18歳3か月で新入幕と、ともに貴乃花に次ぐ史上2番目の年少出世を果たした男も、今年の7月で29歳を迎える。番付が上がり、年齢がベテランと言われる領域に入ると、しこ、鉄砲、すり足と言った基本的な稽古がどうしてもおろそかになる。地味な稽古ほど、肉体的にはもちろんだが精神的に辛いものはない。地道な稽古を徹底的に己に言い聞かせ、課すことで、体だけでなく心も鍛え直そうと稀勢の里は考えているのだ。

 11勝4敗で終わった先場所は「自分がやりたいことが、少しずつやれるようになってきた」と振り返る。本人は具体的には明かさなかったが、得意の左からのおっつけ、差しに加え、課題だった攻めの遅かった右からの上手の引きつけが素早くなった点に、手応えを感じているのだろう。

 問題はやはり「心」だ。13日目に取り直しの末に白鵬に敗れた一番はともかく、痛恨の一番が千秋楽の横綱・日馬富士(伊勢ヶ浜部屋)戦だ。立ち合いで棒立ちになって、そのまま一方的に敗れてしまった。まるで稽古場で幕下の力士が横綱に吹っ飛ばされるような内容に、取組後、本人も「どうしてあんな相撲を取ったのか分からない」と絶句した。

 しばらくの沈黙の後、「15日間の中で、集中できない日もあるんです」と絞り出した。13日目に白鵬の優勝が決まり、心にスキが生まれたのだろう。そんな精神面の弱さが、あの千秋楽にすべて出てしまった象徴的な一番だった。

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