【大相撲】初場所負け越しも、遠藤は着実に進化している (3ページ目)

  • 福留崇広●文 text by Fukutome Takahiro
  • Photo by Kyodo News

 将来の大関、横綱と注目された昨年。負け越しが続き、確かに期待を裏切ったかもしれない。しかし、遠藤はその黒星の裏側で、自分に足りないものをつかんでいたのだ。変わらない相撲を頑なに続けたことで今、上位に通じる力をつけ始めた。それが初場所の変貌した取り口に表れたのだ。

 14日目の琴奨菊戦。今の角界で、立ち合いからの出足と圧力は随一と言っていい大関。遠藤も過去4戦全敗で、立ち合いから一気に持っていかれる展開を繰り返し、まったく歯が立たなかった。ただ、今回は一歩も引かず、すさまじい圧力を全身で受け止め、右ののど輪で大関の上体を起こすと一気に引き落として勝った。引き落としは、相手に圧力をかけなければ決まらない技と言われる。課題だった圧力不足が解消されつつある遠藤の進化を象徴する一番だった。

 追手風親方は続ける。「立ち合いで変化するなと、私は一度も言ったことはありません。それは、あいつの中の相撲に対する考え方、美学なのだと思う。その頑固な姿勢がようやく身になりつつある。周囲からは『もっと出稽古しろ』とか言われてますけど、私は、遠藤のやり方を貫けばいいと思っています。そこで勝てなければ、また自分で考えるでしょうし、考えなければ、それまでのことだと思います。強くなる力士は、最終的に自分なんです。周りが『やれやれ』って言っても、ダメなものはダメ。自分で考えて行動する。これが強くなる力士の基本。遠藤には、それが備わっていると思っています」

 入門から指導を続けている追手前親方が感心していることがある。「こっちが黙っていても遠藤はしこ、鉄砲、すり足の基本を徹底的にやっている。これほど、相撲に対してまじめな力士は珍しい」。

 千秋楽。遠藤は成長を見せた15日間を「プラスに考え自信にしていきたい。まだ、課題はたくさんあるし、一つ一つ克服したい」と振り返った。言葉からは確かな手応えを感じていることがにじみ出ていた。

 もう一人のホープ、怪物・逸ノ城は変化が増えて、3場所目で壁に当たり、今場所初めて負け越した。人気の遠藤、実力の逸ノ城と言われたが、遠藤は決して変化をしなかったからこそ、着実に進化を遂げている。3月場所はさらなる飛躍が期待される。デビューから3年目を迎える大阪で、ひと回り大きくなった遠藤が見られるに違いない。

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