【大相撲】怪物・逸ノ城が大関昇進のために今すべきこと (2ページ目)

  • 福留崇広●文 text by Fukutome Takahiro
  • photo by Kyodo News

 続く2日目。相手は36歳の相撲巧者、安美錦。攻めは初日の遠藤以上に厳しかった。立ち合いで下から突き上げられ、背中が反るほど上体が完全に起きてしまった。苦し紛れに前に出ようとしたところをベテランは見逃さない。まるで突っかえ棒を外すような肩すかしに合い、両手を前に付いてしまった。まさかの2連敗スタート。「相手は自分のことを研究している」。支度部屋でうめいた言葉は、幕内上位の壁を実感した響きがこもっていた。

 成績以上に苦言を浴びているのが相撲内容だ。4日目の大関・琴奨菊戦。立ち合いからの変化で勝つと北の湖理事長は「これが癖になると苦しくなる。もっと踏み込んで自分の形を作らないと、負け始めたらこういう相撲は止まらなくなる」とバッサリ切り捨てた。

 土俵下の正面審判長を務めた審判部の朝日山親方(元大関・大受)は「大関、横綱を狙うんだったら正々堂々とやらないと。上に推薦する時にマイナスになる」と述べた。  

 大関昇進を理事長に諮問(しもん)するのは、番付を編成する審判部が担う。昇進の目安は、三役3場所で33勝以上だが、変化ばかりで白星を重ねて規定を満たしても、昇進が見送られる可能性まで出てきたのだ。

 新入幕だった昨年秋場所も大関・稀勢の里、さらには横綱・鶴竜から立て続けに変化で勝った。この時は、新入幕力士ということで変化も勝とうと思うがあまりの必死な姿勢であって、許容範囲という見方が大勢を占めていた。

 しかし、今は関脇という役力士。しかも2場所目だ。加えてスピード出世とモンゴルから初の遊牧民出身力士というサクセスストーリーが話題となり、ファンの期待値も4か月前とは比べものにならないほど高い。国技館に足を運ぶお客さんは、真っ向からの勝負を楽しみにチケットを買っている。変化で勝つ相撲内容に厳しい言葉が浴びせられるのは、次代の大相撲を背負う逸材だと認められているからこそなのだ。

 師匠の湊親方(元幕内・湊富士)も琴奨菊戦の打ち出し後に「お前は新入幕じゃない。関脇なんだ。2度と変化をやるな」と本人を厳しく叱ったという。「今後、変化はやらせません。ぶん殴ってでもやらないように厳しく指導します」と明かした。

 逸ノ城にとって変化は、勝つための手段だろう。ただ、大相撲は、勝てばそれでいいという世界ではない。正々堂々という日本人の美学に触れる勝負を見せないことには、協会はもちろん、多くのファンには認めらないのだ。大関、横綱と番付が上がれば上がるほど、模範になる勝負を土俵で展開しないといけない。そこが国技と呼ばれる所以(ゆえん)でもある。「ただ、勝てばいい」という考えを捨てなければ、これからの道は開けてこない。そういう意味で今、怪物は岐路に立っているのだ。

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