選手がナショナルトレセンから受ける、無形の恩恵 (2ページ目)

  • 佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun
  • 石山慎治●写真 photo by Ishiyama Shinji

 空間で言えばNTCは、異なる競技者たちが交わる特別なエリアが作られている。例えば、3階のフロアは体操、バレー、バトミントンの施設が入っている。似た競技を同じフロアにしてしまうとお互いを意識してしまう。だが、完全に異なる競技を同じフロアに置くと「こんなボールを使っているんだ」と、自然と会話ができるようになる。そういう環境を整えるために、体操の選手とバレーの選手が休憩する場所を同じにして、そこを「アスリートラウンジ」と称して開放しているのだ。

JOC強化部、笠原健司氏。リオデジャネイロ五輪、 東京五輪はもちろんのこと、その後のスポーツ界の 発展を願っているJOC強化部、笠原健司氏。リオデジャネイロ五輪、 東京五輪はもちろんのこと、その後のスポーツ界の 発展を願っている

「異競技の選手が交わることが五輪で大きな力になるとはそれほど思えないんですが、他競技だからとお互いにソッポ向いているのもおかしな話じゃないですか。違う競技のことを理解できれば選手としての見識が広がるし、人間の幅も広がると思うんです。最初は、共有スペースを作ったらいくつかクレームがありましたが、今はそれぞれすごく仲良くなって、プラスに作用していますね」

 その効果が最初に見られたのが、2008年の北京五輪だったという。NTCは完成したばかりで半年程度の利用だったが、笠原氏はそこで今までになかった光景を目にした。

「アテネ五輪の時は、例えば水泳チームは競泳とシンクロとかチームごとにバラバラに行動していたんです。でも、北京五輪では、体操チームが宿舎から会場に向かう時、レスリングの選手たちは『がんばってよ』と声をかけていた。違う協議の選手同士が非常に仲が良かった。つまり『チームジャパン』になっていたんです。短い時間でしたけど、同じ釜のメシを食べ、生活していくうちに連帯感が生まれてきたんです。これが、複合施設の特徴なんだなって思いましたね」

 この"チームジャパン"の意識はロンドン五輪でもそれぞれの選手の中に育まれ、それがメダル大量獲得という快挙に繋がったひとつの要因でもあった。単純に練習する場だけではなく、そうした意識を育み、それを戦う力に変換していくのは、NTCの狙いのひとつでもあったのだ。

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