潜入! 2020東京五輪の前線基地、ナショナルトレセン (3ページ目)

  • 佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun
  • 石山慎治●写真 photo by Ishiyama Shinji

「ここは、五輪や世界選手権など世界の主要な大会に向けて器械器具を先取りし、代表選手たちが国内にいながら、大会の器械に技術を合わせていける場所です」。そう語るのは、体操協会マルチサポ-ト委員会委員長の立花泰則氏である。

体操協会、立花泰則氏。「器械は安全性を 高めるためと、選手の技術向上により、 年々進化しています」体操協会、立花泰則氏。「器械は安全性を 高めるためと、選手の技術向上により、 年々進化しています」

 意外と知られていないが、体操の器械は五輪や世界選手権などでメ-カ-が異なる。

「大会によってメ-カ-が異なるのはもちろんですが、世界体操連盟が定める器械の許容範囲が広いので、それぞれ器械の特徴がまったく異なります。選手はミリ単位で器械に技術を合わせていきますし、今は高難易度の技を多くやらないといけないル-ルになっているので、現地に行って合わせるのではとてもじゃないですが、戦えない。国内にいるときから、技術を自分に落とし込んで世界の舞台と同じ器械に合わせて調整し、さらに現地で合わせていかないと勝てないのです」

 広大なフロアには、体操の全種目の器械器具が置かれている。しかも、それは単一のメ-カ-だけではない。たとえば、体操の床運動の床は、ヤンセン・フリットセンというオランダのメ-カ-とセノ-という日本のメ-カ-の2タイプが置かれている。青色の床のヤンセン・フリットセンは、2013年10月にベルギ-で開催されたアウントウェルベン体操世界選手権で使われたメ-カ-だ。日本体操協会ではその情報を得るや否やJOCと協議し、870万円を投じて購入。同年1月の時点 で、その床を保持していたのは日本と豪州のみだったという。それで練習を積み、ベルギ-での体操選手権の床運動で金メダルを獲得したのが、白井健三だった。

      
左がセノー、右がヤンセン・フリットセンの床。素材や構造も異なり、固さ、弾力性の違いは歴然。素人でもすぐに判別できる

「白井は、納入された時からここで練習していましたね。その床がどれだけ違うのかというとセノ-はスプリングがあってベニヤ板があり、吸収材、反発材、絨毯の構造になって全体的に軟らかいんです。ヤンセンはスプリングの上に板があり、その上に絨毯だけなので硬いんです。床運動は、5、6回、大技での着地があるので、その度に減点されると最大で0.6ポイント引かれることになる。着地を含めた技の完成度を高め、減点を避けるために、白井はここでヤンセンの床に慣れることが必要だったのです」

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