金メダリスト・冨田洋之が考える「美しい体操選手を育てる第一歩」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

 その意味でも今後に向けて、『ポスト内村』の育成は急務だ。今年の世界選手権では田中佑典(コナミ)が個人総合3位になったが、冨田氏がコーチを務める順天堂大学には、2013年の世界選手権で個人総合2位の加藤凌平や、今年のNHK杯で2位になり、個人総合枠で世界選手権代表を決めた野々村笙吾がいる。彼ら若手をどう育てるかも、日本体操界にとって重要なテーマだ。

「それぞれに個性や特徴があるから、それを活かして伸ばすというのを第一に考えますね。個人総合に関して言えば、今の日本の選手の力量だと、誰が選ばれてもメダルに絡んでいける能力は持っています。よって、彼ら若手も主軸となって戦うことをイメージしながら、それぞれの強化ポイントを考えています」

 順天堂大学の後輩について話を聞いてみると、加藤は身体の使い方がうまくて、失敗をしないのが特徴だという。得意にしているゆかのレベルをどんどん伸ばしながら、他の種目のDスコア(※)をいかに高めていけるかが課題とのこと。一方の野々村は、体勢がきれいでEスコアを伸ばせる選手のひとり。しかし、大事なところでミスが出てしまうのでいかに修正するかと、同じくDスコアをどこまで高めることができるかがポイントという。

※Dスコア=技の難度を得点化したもの。個々の技の難しさに応じて得点が加算されていく。

 また、冨田氏は国際体操連盟の技術委員としてルール作りに関わっているが、ルールの変更や採点の指針・傾向などを素早く日本チームに伝え、現場で活かすことも自身の役割だと語る。

「リオデジャネイロ五輪に関しては、ルールが一気に変わるということはないでしょう。よって、今年から加えた種目別のスペシャリストとともに、継続して個人総合を強化していく方向でいいと思います。ただ、リオ五輪以降を考えると、スケジュールなどすべての流れを変えなければと思っています。

 たとえば、今年は6月に代表が決まってから、10月の世界選手権までに合宿を5回やりましたけど、8月~9月には社会人や学生の試合があったので、世界選手権に向けての集中したトレーニングや強化がしづらい状況でした。東京五輪に向けて今後は、体操関係者すべてを巻き込んで、世界大会に集中できるような環境やシステムを構築することが課題だと思います」

 試合数が多くなってくると、ケガの問題も出てくるだろう。冨田氏は現役時代、「大きな大会の1週間後に、社会人の大会などに出なければいけない時の疲労感は強かった」と語る。内村も必要のない試合には、極力出ないようにして負担を減らしているという。

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