世界のトレンドからいけば国立競技場は「改修」である (4ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by AFLO SPORTS

 新築ではなく改修で、十分いける。前述のシンポジウムでは、改修こそがあるべき姿だという意見が多数を占めるようになりつつある。日本人の「もったいない」の気質にも、相応しい、と。

 改修は、ともすると「せっかく五輪を開催するのだから、スタジアムは少し立派なものにしたい」と意気込む人たちの気勢を削ぐ、地味ものに聞こえる。だが、世界には、改修で鮮やかに蘇(よみがえ)った例がいくらでもある。

 例えば、これから改修を始めようとしているサンティアゴ・ベルナベウ(マドリード)。ネットでも公開されているその完成予想図を見れば、改修のイメージは変わるはずだ。改修でここまで変わるかと言いたくなるほど、斬新なフォルムになっている。

 1936年ベルリン五輪のメインスタジアムは、2006年ドイツW杯開催のために改修された。ヒットラー率いるナチスドイツが、世界に力を誇示するために開催したとされるベルリン五輪。負のイメージが残るそのメイン会場を、ドイツはあえて取り壊さず、改修することで2006年W杯決勝の舞台にした。二度とあってはならないものを綺麗サッパリ忘れるなという思いが、改修には込められていたという。

 国立競技場は、1943年に学徒出陣式が行なわれた地だ。綺麗サッパリ忘れるべきではない場所という意味で、ベルリン五輪スタジアムと共通する。五輪が平和の祭典というならば、あるいは「もったいない」気質を日本人が世界にアピールしたいなら、改修で、と言いたくなる。アッと驚かせるような改修。その方が、いまの時代にも、世界に対しても胸の張れるものだと思う。

 神宮外苑の景観にも、その方が相応しい。ベルリン五輪スタジアムは掘り下げ式だ。スタンドの外壁の高さは、地上10mぐらいしかない。これを神宮外苑にすっぽり置き換えれば、周囲とは完璧に調和する。

 国立競技場は、まだ取り壊されていない。そして僕は、その近隣住民のひとりでもある。これまで国立競技場に何百回と足を運んだスポーツライターでもある。遅いといわれようが、一言いいたくなるのである。これでいいのか新国立競技場、と。

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