世界のトレンドからいけば国立競技場は「改修」である (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by AFLO SPORTS

 とすれば、スタジアム内で養生しなくてはならないのだが、ザハ・ハディッドさん設計の新国立競技場は、開閉式の天井部が開いた時の面積が著しく狭い。芝の養生に不可欠な太陽の光と風を満足に取り込むことができない。計画通り建設されれば、ピッチの芝は頻繁に張り替えなければならない状態に追い込まれる。

 その1回の費用は億単位だ。ランニングコストは恐ろしく高く付く。採算を考えれば、その回数が抑えられる可能性がある。となれば、例えばサッカーは、現在の国立競技場より、悪い環境の中で試合をさせられることになるだろう。

 先日、日本代表はブラジル代表とシンガポールのナショナルスタジアムで試合をしたが、新装なったこの開閉式ドームのピッチコンディションは最悪だった。サッカーの試合を行なうべき舞台ではなかった。しかし、新国立競技場の開閉時の天井は、これより遙かに狭い。少なくとも、芝が命のサッカーには、適さない可能性が高い。現在の質はとてもではないが望めそうもない。

 サブトラックの問題も解決していない。これは陸上競技の問題だが、五輪や世界陸上を開催するスタジアムは、その近くにウォーミングアップ用のトラックを併設していなければならない。だが、国立競技場周辺にそれだけの土地はない。そして、ザハ・ハディッド案には、解決策が記されていない。どうするつもりなのか。

 そもそも新国立競技場で、情報として明らかになっているのはスタジアムの形状だけだ。外観のイメージのみ。内部の具体的な構造などは、不思議なほど明らかにされていない。この状態で、本当に建設を始められるのか。準備万端整っているという感じではない。

 建築家の世界でも、異論を唱える人が増えている。引き金になったのは、昨年、槇文彦氏が建築雑誌に寄稿したコラム。プリツカー賞の受賞者として知られる日本を代表する建築家が、新国立競技場について真っ向から否定したことで、多くの専門家が集まり、シンポジウムが開かれるようになっている。最近では、同じくプリツカー賞の受賞者で、新国立競技場のコンペにも参加した伊東豊雄が、改修案を提示し話題を集めている。

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