新国立競技場に賛成できない最大の理由

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by AFLO SPORTS

 神宮球場もその一角にある。こちらもそのコンクリートの塊は露わになっていない。威圧感の低い造りになっている。グラウンドが掘り下げ式なので、建物自体の高さを低く保つことができているのだ。公園の中にバランスよく綺麗に収まる、まさに明治神宮野球場という正式の名前に相応しい佇まいを維持している。

 それは秩父宮ラグビー場にもあてはまる。そのバックスタンドの外観は、背後に控える銀杏並木の景観を、少しも阻害していない。

 青山門付近から眺める国立競技場のバックスタンドが、公園内における唯一の違和感。そう言っていい。その高さは地上27.76m。ビル1階分の高さを3.5mとすれば、それはおよそ8階建てのビルに相当する。

 新しく生まれ変わる国立競技場は、様々な問題点を抱えているが、最も分かりやすいのは、その建物の高さにある。高さは70mにも及ぶ(当初の計画では75mだった)。現在の国立競技場の照明灯の高さが52.32mなので、それを基準にすれば、70mという高さがどれほど威圧的なものであるか、イメージできると思う。これでは神宮の杜は杜ではなくなる。

 奇抜で斬新な建物の形状も輪を掛ける。コンペで選ばれたイギリス人、ザハ・ハディッドさん設計の宇宙的でバブルっぽささえ抱かせる建造物が、明治神宮外苑の神聖で厳かな雰囲気にマッチするかと言えば、完全にノーだ。違和感の塊。景観破壊そのものになる。日本橋の真上に首都高速道路を架けてしまったのと同じ愚を犯すことになる。東京の名所をひとつ潰すことになる。神宮外苑の公園としての魅力、価値は激減する。

 神宮外苑は、東京の名所であると同時に、世界に対しても胸を張ることができる総合スポーツパークだ。人口1000万超の首都の、そのド真ん中に、これほどの好環境と、アクセスの良さを併せ持つナショナルスタジアムを構えている国は他にない。

 僕はこれまで世界各国の何百というスタジアムを訪れた経験があるが、それに基づけば、神宮外苑は奇跡的な空間、スポーツパークだと断言できる。国立競技場を世界のベストスタジアムのひとつに挙げることができる。

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