【レスリング】4連覇するも吉田沙保里「やっぱり中国は強敵」 (2ページ目)

  • 宮崎俊哉●構成・文 text by Miyazaki Toshiya photo by AFLO

 一方、伊調馨が58キロ級に転向した後、63キロ級代表として初の世界大会に挑んだ渡利璃隠(わたり・りお)は、「勝たなければと意識しすぎて空回りした」結果、世界選手権1回戦でフォール負けを喫した汚名返上とばかりにアジア大会へと乗り込んでいた。気力・体力ともに十分な仕上がりで試合に臨むと、台湾・陳ミン陵との1回戦でいきなり10-0、さらに韓国・金敬恩との2回戦も12-2と連続テクニカルフォール勝ち。63キロ級の日本代表として、実力の違いをアジア勢に見せつけた。

 さらに勢いに乗った準決勝では、9月の世界選手権60キロ級を制した後に63キロ級でエントリーしてきたモンゴルのチェレンチメド・スヘーも撃破。そして、決勝の舞台で2013年のアジア選手権優勝の中国・西洛卓瑪と対峙すると、試合終了3秒前に逆転勝ちし、中国の63キロ級1番手を破って金メダルを獲得した。

 48キロ級と63キロ級でともに金メダルを獲り、「全4階級制覇」の夢が膨らんだ女子スタイル2日目。決勝戦で中国勢と当たった登坂(48キロ級)、渡利(63キロ級)とは対照的に、55キロ級の吉田沙保里と75キロ級の浜口京子は、初戦で中国勢と対戦した。

 レスリング史上初のアジア大会4連覇は間違いなしと、誰もが楽観視する中、マットに上がった吉田を見て、誰もが驚いた。

「小さい......」

 わずか17日前、世界選手権を53キロ級で戦った吉田は試合後、「増量します」と計画していたものの、体重を増やすことができずにアジア大会を迎えていた。初戦でぶつかる相手は、今年のアジア選手権55キロ級で優勝を果たした中国の鍾雪純。その相手とマットで並ぶと、小ささ、細さは観客席から見ても明らかだった。

 そして試合開始早々、吉田はシニアになって初めてと言っていいぐらい、絶体絶命の大ピンチに立たされることになる。鐘雪純に小内刈りを決められ、身体をマットに叩きつけられると、そのままニアフォール。吉田は両肩がマットにつかぬよう必死に逃げ、最後は首だけで身体を支えるブリッジで耐えた。これまで誰も見たことがない、吉田の苦しい形相......。それが30秒ほど続いたが、ようやく身体を反転させてうつ伏せで逃れるも、アンクルホールドをかけられ、まさかの0-5で劣勢に立たされた。

 オリンピック3連覇、世界大会V15の吉田が、ここで負けるのか――。そんな空気が会場を包み込んだ。だが、吉田はあきらめなかった。第2ピリオドに入ると、1本背負いで4点を獲得。再びポイントを引き離される展開になりつつも、最後は12-9で大逆転し、世界女王の底力をライバル・中国に見せつけた。

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